「停電の夜に」ジュンパ・ラヒリ | 藍色の傘

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一日中、猫を膝に乗せて、本を読んで暮らしたい。


「停電の夜に」ジュンパ・ラヒリ




ラヒリはインドにルーツのある女性作家で、根底には「ここではないところから来た者(移民とは少し違う)」としての想いがあり、収められている9編の短編はどれも夫婦や家族の物語である。
母国では無い場所に暮らす中で、寄り添っていったり、離れていったり、お互いの気持ちを通い合わせようとする人達の心の機微が、繊細に淡々と綴られている。

度々登場する「ベンガル人」についての知識がまず足りず(ベンガル猫や虎くらいしか知らなかった)ベンガルがどの辺りなのかを途中で調べたりして、ベンガル語と日本語の文法が同じで、ベンガル語話者は日本語話者の2倍いることを知り、そんなところも新鮮で面白かった。
主人公の名前が男なのか女なのか、読み始めは見当がつかないまま探り探りで読んでいき、途中でイメージ像を作り直しながらという作業も、丁寧に読むのに良い環境だったかもしれない。

貧困や偏見のテーマもあるのに、全体にあか抜けていて「今」な感じが新しい。この感情や場面の切り取り方、終わり方は、海外文学でなければ味わえないだろう。

「停電の夜に」
「ピルザタさんが食事に来たころ」
「病気の通訳」◎
「本物の門番」◎
「セクシー」
「セン夫人の家」◎
「神の恵みの家」
「ビビ・ハルダーの治療」
「三度目で最後の大陸」◎◎

以上9編、どれも短編映画のようである。

一度に読まずに、一日一編くらいが丁度良いかもしれない。


2000年ピューリッツァー賞文学部門受賞。