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⠀「残像に口紅を」筒井康隆
筒井康隆の根底にあるのは「ジャズ」と「狂気」である。
「音(おん)」が徐々に消えていく虚構の世界の中で、残された音(おん)を駆使して物語を構成していく試みは、困難を極めながらも、さぞ楽しかったことだろう。
第一部の終盤から第二部にかけての辺り、作者のニヤニヤが見えるようで、表現のまどろこしさが行為のもどかしさとなって伝わり、こちらもニヤニヤしてしまった。
三分の二を過ぎたあたりで、苦しまぎれのこの表記は使役の「せ」が消えているからか!と初めて違和感を感じたが、終盤は加速度がつくようにリズミカルになり、見事に完結した。
最近話題になった(2017年にアメトーク!でカズレーザーが紹介したとか、2020年のTikTokとからしい)ために、ずっと書店で平積みになっていたので、久しぶりに手に取った筒井康隆だったが、1989年に書かれたとは思えないほど新しく、面白い。
こんな無茶な実験小説なのに、どこか余裕すら感じさせる筒井康隆。
さすがとしか言いようがない。
昨今出現している「言うのを憚られる言葉」群に、正直、不自由を感じることもある。
現実の世界では、その言葉が使えなくなっても、事実や現象は消失しない。
むしろ「ないこと」のような存在になり、蓋をしてしまうことで見ない知らない考えないことになるのは危険なことだ。
それでも巧みに言い換えや言い回しを考え出す、ごく普通の日本語話者の凄さや、日本語の面白さ奥深さにも、改めて感心させられるのである(使役受身形)。
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