「われわれは皆ゴーゴリの『外套』から生まれ出たのだ!」
と御大ドストエフスキーが言ったとか言わないとか。
実際言ったという証拠はないようだが、
この「外套」はロシア人道主義思想に大きな影響を与えたと言われており、
貧しい市井の人民の誠実さ、
それ故の滑稽さが愛情をもって描かれている。
180年前のペテルブルク、
公文書の清書をするしか能のない下級官吏のアカーキィ・アカーキエヴィッチは、
辛抱に辛抱を重ねてきたが、
ある日とうとう外套を新調せざるを得なくなり、
その外套に翻弄される男の物語である。
極寒のロシアで、
外套(がいとう=コートのことです)一枚仕立てるのも大変な時代だったのだろう。
これからも何百年経っても読み継がれる傑作。
間違いない。
ドストエフスキーは長くて読むのに多少努力と根気が必要で
簡単にひとには勧めないが、
これは名訳の誉れ高い、平井肇氏のユーモラスな調子の訳も読みやすく、
なんと言っても短い。
60ページしかない。
外国文学を読んだことがない人にも強くお勧めする。
同録の「鼻」もシュールもシュールで絶句、
「あるかないかで言ったらこんなのもありよ」
と堂々と作品の中で断言するゴーゴリにやられる。
やはりロシア文学は、文句なく面白いのだ。
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