これ見て思い出した。
いや、忘れたことなどないから、思い出したっていうのはちと違うか。
小学校6年生の夏休みの終盤。
24時間テレビを見ていた深夜。
床でうつらうつらしながら見てたら、猫が来た。
真っ黒の長毛種で、まだ生後2年位じゃないかな。
僕は猫に好かれんたちで、この前からこのあとまでで、実家では多い時で5匹同時に、全部で9匹ほど猫を飼っていた。
ちなみに犬も飼ってて、多い時で2匹同時。
でも犬は少なくて、知ってる限りで5匹だな。
で、その真っ黒いのが珍しく小さくニャァって鳴きながらやってきて、僕の手にしつこく顔を擦り付けてきた。
いちお、僕が名付けしたんだ。
でも飼ってたのは母親だったな。
僕は生き物が好きなんで、この子のことも大いにかわいがったけど、あっちから来ることはなかったんだよねぃ。
でもこの夜は、たっぷり撫でさせてくれた。
その後、まもなく亡くなった。
あの夜は、最後のお別れに来てくれたんだと信じてる。
あと、2~3年前の今頃に、犬が亡くなった。
15歳くらいかな。
白血病だった。
亡くなった数日後、寝ようとしたら、珍しく猫がきた。
朝方潜り込んで来ることはあっても、寝入りばな一緒になど絶対寝てくれないのに。
どうするのか見てたら、僕のお腹の上に横から乗って、長々寝そべった。
驚いた。
これ、犬がやってた仕草だ。
猫が来る前は僕の布団で寝てて、よくそうしてた。
すごく重いんだ。
猫と入れ違いにじじが実家に連れて行ったので、2匹に接点はあまり無い。
実家に住み始めてからは犬は外飼だから、猫がこんな寝方を知るよしもない。
久しぶりに腹にのられた。
犬が、来たんだと思う。
お別れを告げに来て、猫の体を使ったんだ。
猫が乗ってきたのなんか、後にも先にもこれ、1度きりだよ。
さらに、これ見て思い出した。
いや、正確に言えば忘れたことないんで、思い出したんとは違うな。
ママは脳腫瘍の手術を毎回12時間耐え、でも手術するたび確実におかしくなっていった。
2回めか3回目かの入院中だ。
脳腫瘍が見つかった時にお腹にいた7ヶ月胎児の次男は、8ヶ月になるまでママが頑張ってくれたので、2ヶ月を保育機で過ごしたあと、僕が育てていた。
ママの見舞いには、毎回一緒に連れて行っていたんだ。
でも記憶が時々おかしくなるから、次男を自分の子供と認識するときもあればしないときもあって、総じてしないときのほうが多かったな。
ある日、いつものように次男をベビーカーに乗せて行った。
「どなたですか?」
と聞かれたので、
「あなたの旦那さんです」
と答えた。
納得いかないのか首を傾げながら、今度は次男を見て
「この子はどちら様ですか?」
と聞かれたので、
「あなたの息子さんですよ。かわいいでしょ?」
と答えた。
「私の子供ですか」
とあらためて聞かれたから、全くわかってないんだな。
「この子があたしの子供で、あなたの子供なんですよね?」
「そうだね」
「じゃぁ、私はあなたと結婚してるんですか?」
と聞かれた。
から、
「そういうことになるね」
と答えると、なんかすごく不思議な顔をして考え込んでしまった。
「忘れちゃった?」
「はい」
というので、
「じゃぁ、もしよかったら、僕と結婚してくれませんか?」
と聞いてみたら、
嬉しそうに
「はい」
と答えてくれたので、2回目のプロポーズ成功です。
そして、結婚生活はこのあと3年間でした。
最後の1年間はほぼ病院生活で、亡くなるまでの半年は意識もないまま入院していたなぁ。
認知症は、寂しいねぇ。