百貨店に姿を飾ったエビたちが無数に並びはじめた。
2月14日。
「あなただけに」と心の中で舌を出す。
「俺だけではないはずなのに」と想定内にほくそ笑む。
唯一無二を演じるエビたちは解き放たれ、やがて唯一無二を演じる鯛に姿を変えて戻ってくる。
目論見と期待が蠢く。
溜息と抑揚が交錯する。
嫌いじゃない、その駆け引き。
あえてそのレールに乗り、あえてその流行りに乗っかる。
そのフリをする。
いわば社会の縮図だ。
エビで鯛を釣る。
大漁旗を掲げる日。
その日を待たずして釣り人たちは今日も朝から竿を垂れる。
今日は何が釣れるのだろうかと。