感性の扉
ときどき、身体を動かすことにしています。 時間に余裕があるときは、カフェでくつろいで始まりを待ちます夜の窓辺には時折車のライトがあたり、そのときだけ、外の色が蘇ります。ハッとした瞬間に、昼間目にした漢詩を思い出しました。「山亭夏日」高駢綠樹陰濃夏日長...楼台倒影入池塘水精簾動微風起一架薔薇満院香起句(一行目)では、照りつける太陽を背に樹木の下に広がる黒々とした「陰」、承句(二行目)では、池の水面に映った高殿の「影」が描かれています。つまり前半では、夏の光がつくる「陰」「影」に焦点が当てられています。緑、太陽、水…版画のようにくっきりと輪郭づけられ、端正に静止した真夏の風景しかし転句(三行目)にて、連なった水晶でできた簾が揺らめいたそのとき、プリズムが散らばって辺りはきらめき(視覚)、涼しげな音が響き(聴覚)、五感がぱーっと躍動的にひらけていくのです。ああ、風が吹いたのだなあ視線はいつのまにか、上向きに変化しています。「水精」は水晶、「簾」はすだれのことですが、「水晶のすだれ」だなんて、晴れた日の 光があたったら、どんなにか神秘的な美しさを舞わせてくれることでしょうそんな視界に映った薔薇の美しさ、香しさ。色はしめされていませんが、可憐な、赤い野薔薇なのではないでしょうか。それは、吸い込まれるような彩りの世界いま、車のライトが照らし出すのはまだ寒々しい景色なのだけれど、赤い薔薇が咲いたような気持ちになりました。言葉が、時空を超えてむすばれるとき、五感が覚醒するような、解放的な癒しを感じます。知れば知るほど、生きれば生きるほど、まるで癒しの裾野が広がっていくようです訳「木々の緑は濃い陰を落とし、夏の日は長い。高殿は池の水に逆さまに影を映している。水晶でできた簾が動いてかすかな風が起こり、棚に置いてあった薔薇の香りが部屋じゅうに満ちた。」