「春より早く」【中国新聞 詩壇 掲載】

 

春に命を繋ぐ 冬籠りの季節に

二度と目覚めない

連れ合いを見送る義母(はは)の姿

 

別れは突然で

さよならもありがとうも

天に立ち昇る煙に追いつかず

 

ぽっかり空いた寂しさを

何で埋めればいいかもわからず

涙が雪に変わり

思い出の上に白く降り積もる

 

春はまだまだ遠いけど

もう 暖かい場所にきっと居る… とつぶやきながら

まがった腰を伸ばして 遠くを見る

 

ほんの僅かに春を望み

冬籠りの季節を忍ぶ

 

思い出話の花を咲かせる春よ

季節より先に

早く 来い

 

桜色に頬染めて 再び微笑む一時の春よ

義母(はは)の背中に

早く 来い

 

 

 

 

 

七十二侯「熊蟄穴(くまあなにこもる)」の季節に。