えっ、『バロック』が閉店?
営業時間を調べようとネットを見たら『バロック』の上に赤く “閉業” の文字…
念のためお店のHPを確認すると、そこには「51年間のご愛顧、誠に有難うございました」の挨拶が。さらに見ると、昨年7月の段階で既に12月末をもって閉店する旨の告知があった。
そもそも今では“名曲喫茶”自体が死語かもしれない。名曲喫茶とはクラシック音楽を聴かせる喫茶店である。ステレオやLPレコードが高価だった1960年代が全盛だった。家でクラシックを良い音で聴くのが難しかったのである。
『バロック』は1974年12月に吉祥寺で開店した。当時 “近鉄裏” と呼ばれていた歓楽街の一角、飲食店ビルの2階にある。なぜこんな所に名曲喫茶があるのかずっと疑問だったが、今回お店のHPを見て理由を知った。初代店主の持ちビルだったのである。
この初代店主の音に対する拘りは凄まじい。宗教曲、ピアノ曲、交響曲など曲に合わせて20数台のアンプ(それも真空管)や4種類のスピーカーを使い分けていた。店主手作りのアンプも多いそうだ。
が、この初代のこだわりが閉店の一つの理由だという。初代が亡くなって30年以上経つが、そもそも初代以外にシステムを熟知している者はいない。またアンプ等の交換部品の入手も難しくなっている。壊れたアンプを直す人も換える部品もないのである。もはや初代が設定したとおり、曲に応じてアンプを使うことはできない。
このほか2代目店主(初代店主の奥様)の高齢化(80代半ばとのこと)、初代店主のバロック音楽への熱い想いや音への拘りを理解し受け継ぐ者がいない等が閉店の理由だという。勿論、背景には名曲喫茶が時代に合わなくなったことがあるだろう。音楽が手軽に、それも良い音で聴けるようになった中、薄暗い部屋で皆がスピーカーに向かって座り一心に音楽を聴く必要などないからだ。
最後に僕の『バロック』の思い出を二つ。
一つはSPレコードのコンサート。まだ初代店主がお元気だった頃、氏の解説付きで蓄音機によるSPレコードを聴いたことがある。当然音は良くなかったが、氏が昔の人はすごいと熱弁されていたのを覚えている。録音は今とは違い通しで録音。何回も録音し良い部分を切り貼りするのではないため、演奏者にはより高い実力、集中力が求められた。狭い部屋での録音のため、指揮者と後ろ向きに座り、指揮を鏡で見て演奏していた強者もいる。といった感じ。あなた、録音を見たのですか?と突っ込みたくなる。
もう一つは叱られたこと。僕は、珍しいなと思いピアノ用に編曲された交響曲(ベートーヴェンの7番?)をリクエストした。なるほどこんな感じかと思い、途中から本を読み始めた。すると奥様がいらして、きちんと音楽を聴いて下さいとお叱りを受けてしまった。バロック以外の曲をリクエストしたこと自体が顰蹙だったのかもしれないが、注意されたのは事実。以後、リクエストした際は音楽と真摯に向き合うことにした。
実は、昨年11月に上京した際、閉店のことは知らずに『バロック』を訪れた。隣の三鷹で用事があり、早めに出てお店に寄ったのである。時間となり1時間くらいでお店を出ようとしたところ、2代目店主から「もうお帰りですか」と驚かれた。これが最後と知っていれば・・・。
長い間お世話になりました。ありがとうございます。
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