ガラガラなのに「空き容量なし」?送電線空き容量問題とは!?・安田陽さん(vol.110) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

ご当地電力などが再エネ設備を設置する際に、最大の課題となっているのが「接続拒否」問題です。送電線を管理している大手電力会社から「送電線に空き容量がないのでつなげません」と言われてしまうのです。発電所をつくっても、送電線に接続できなければ事業になりません。場合によっては、容量を増設する工事をすればつなげるものの、事業にかかる総額を上回る莫大な費用を請求され、断念するケースもあります。

 

 

 

しかし、京都大学の安田陽教授らの試算により、「空き容量がない」と言っていた電力会社の系統は実は20%以下しか使用されていなかったことが判明しました(東北電力管内の北東北4県の高圧線)。このようなギャップはどうして生まれているのでしょうか?今後のご当地エネルギーの命運を握る送電網の空き容量問題について、安田先生に伺いました。 

 

◆ ホントに空き容量なし?緊急車両のために8割空ける道路

 

 高橋:まず、送電網は本当に空いていないのか、ということについて説明してください。

 

 安田:片道10車線の高速道路で例えてみると、現状はこの図のような感じになっています。

 

(提供:安田陽氏)

 

2車線だけ使って大半は空いている。それなのに、「残りは緊急車両が通るので使えません」と言われ、他の車が通れないようになっています。しかも、先に予約した車を優先するルールなので、新しく入ってくる車両(その多くが再エネ)はいつまでも待たされている。 

 

高橋:安田さんが、広域機関(OCCTO)の公開データから北東北4県の高圧送電線を調べた所、この図と同じようにガラガラだったということですね。ここから感じる疑問は2点です。1点目は、これほど余分に空けておくのが妥当なのかどうか。

 

2点目は、再エネを排除するような形になっている優先順位の問題です。まず1点目からお聞きします。電力会社と経済産業省は、非常時に停電にならないように空けていると説明しています。非常用とは言え、8割以上を空けることは、送電網の分野ではあり得ることなのでしょうか? 

 

(安田さんが分析した北海道と北東北の送電網(系統)/提供:安田陽氏)

 

安田:よく誤解されるのですが、「送電網が空いているから即問題だ」「電力会社は不正をしてけしからん」、と言うことではありません。何か起きたときのために、ある程度の余裕をとっておくことは当然で、100の容量があるなら100全部を使えば良いというものではないからです。

 

そしてどれくらいの量を使えばよいのかという基準も、さまざまな条件によって変わってくるので、電力会社や経産省の説明も間違いとは言えません。とは言え、結果的にとはいえ8割以上空いているという設備の使い方はさすがにもったいなさすぎますし、再エネが入らない理由にはなりません。欧州では再エネが増えていますが、再エネを大量導入しても停電は増えてはいません。 

 

◆ 計算上は、全電源が100%マックスで発電する?

 

 高橋:欧州と日本とでは、どこが違うのでしょうか? 

 

安田:必要な空き容量を計算する基準が違います。日本では、定格容量をベースにして計算しています。まずは非常時に対応できるよう送電網の大半を空けています。その上で、すでに接続しているすべての発電所が同時に、フルパワー(定格容量)で稼働した場合を想定して、それでも問題が起こらないように送電網を空けているのです。

 

そのため、実際に流れる電気の量の何倍も空けることになっています。欧州は違います。実際に流れる電力量である「実潮流」をベースに計算しているため、空いていれば誰でも使えるようなルールになっています。そちらの方が合理的です。

 

高橋:例えばわが家には屋根に5キロワットの太陽光発電がついていますが、最大出力である5キロワット時発電することは年間を通じて一度もありませんでした。1基でさえそうなのだから、送電網につながっているすべての発電所がフルマックスで、しかも同時刻に発電するような可能性はほとんどないと思うのですが? 

 

 

安田:例えば、太陽光発電と風力発電が同時に100%の出力になることは、気象学的にほとんどありえません。しかも、それが1基ではなく東北地方という広いエリアすべてで晴れ、さらに風も吹くというような可能性を計算すると、限りなくゼロに近いような天文学的な数字になります。もちろん、太陽光発電の出力が必要以上に上がったら、火力発電を下げるなどの調整をすることもできますし、最悪の場合は再エネの方を出力抑制することもできます。

 

最大の問題は、年間を通じてもほとんど考えられないようなすごく小さな確率の事象を気にして、再エネなど新規電源の接続を拒否するのは、科学的な合理性がなく、国民の便益につながらないということです。

 

 ◆送電網を最大限活用する新しいルール作りを 

 

高橋:2点目として、空き容量が少ない中で、結果的に新規の電源である再エネが排除される形になってしまっている点についてはどうでしょうか?

 

安田:再エネを考える際は、国民の「便益」という考え方が大切になってきます。コストだけを考えても、それに投資することでどんな便益が得られるのかという視点がないとおかしなことになる。単にコストがかかるからやめましょう、となってしまうと、あらゆるインフラに設備投資ができなくなってしまいます。欧米や中国では、かけたコストに対して得られる便益が大きいから、再エネを推進しています。

 

 

高橋:日本では再エネの便益を考慮せず、「先に接続していた電源を優先する」(先着優先)という方針に基づいて、機械的にこれまで主流だった火力発電や原発の電気を優先しています。しかし再エネを活用している各国が送電網をめぐる新しいルール作りに切り替える中、日本だけが古いルールに固執していると、国民が損をすることになるかもしれません。

 

安田:そうですね。この送電網をめぐる問題は、誰かをバッシングして解決するものではありません。国民の便益になるよう、ルールを新しく整備するきっかけにしていくべきことです。その第一歩として、送電網に関するデータを電力会社が公開していくのは大切なことです。ブラックボックスの部分が多いと、どうしても国民から疑われてしまう面もありますから。

 

(実際の運用容量【オレンジの枠】では、20%以下の利用率が目立つ/提供:安田陽氏)

 

とはいえ、法律がないのに強制的に出せというのも、よろしくありません。欧州では、送電会社が積極的にデータを公開しています。それは透明性を高めることで市場で評価される、つまり企業のメリットにつながるからです。日本でもそんなふうに「みんなが納得できる仕組み」をどうつくっていくか、という視点が大事になってくるでしょう。

 

高橋:最後にまとめとして、これからの送電網利用についての考え方を教えてください。

 

安田:送電線利用率をどう考えるか、といったテーマは比較的新しい問題で、欧州でもはっきりと定義されてきたわけではありません。でも、これからの時代は国民の便益のために、いまある送電線を最大限活用する仕組みを築かなければならない。

 

日本では、2015年から広域機関(電力広域的運用推進機関)が設立され、遅まきながら少しずつデータが公表されるようになってきました。私たちが、電力会社管内の送電線利用率を計算することができるようになったのも、そのおかげです。その意味では広域機関の意義は大きいし、今後も公平で中立的な役割を果たしてほしいと思っています。

 

高橋:ありがとうございました。お話を伺って、国民の利益になるように、重要なインフラである送電網の利用率を効率化していくことが、ご当地電力や自然エネルギー活用の未来にもつながってくることがよくわかりました。今後も、このテーマに注目していきたいと思います。

 

◆お知らせ:映画「おだやかな革命」公開!

 

日本で初めて、ご当地エネルギーの取り組みを描いたドキュメンタリー映画

「おだやかな革命」の公開が始まりました。ぼくはこの映画にアドバイザーとして関わらせてもらっています。会津電力、飯館電力、にかほ市と生活クラブの風力発電、郡上市石徹白集落の小水力、岡山県西粟倉村のバイオマスなど、このリポートでもおなじみのご当地エネルギーが続々登場します。自然エネルギーの活用によって衰退する地域を取り戻す挑戦を、4年にわたって追い続けた大作です。ぜひご覧になってください。詳しくは映画のホームページへ。