明けましておめでとうございます。このリポートを主催するエネ経会議をはじめ、応援していただいている皆さんのおかげで、今年の3月には連載100回を数えることになりそうです。今年もどうぞよろしくお付き合いください。
2017年最初の記事は、電力自由化についてのコラムの続きになります。前回は、「あれこれ考えずに、ひとまず電力会社を切り替えてみようという」という話をしました。今回はさらに踏み込んで、一般の方にとってとっつきにくい「電力自由化」とどんな態度でつきあっていけば良いのか、という点についてまとめました。
◆ トピックス
・今が安ければいいの?
・「消費者」か「参加者」か?
・電力自由化は「投票」と同じ
・クラウドファンディングで育てる
◆ 今が安ければいいの?
前回、今の時点で切り替えている家庭は「決して少なくはない」という分析もできると言いました。そして、すでに切り替えた人のほとんどは、安い価格や付加的なサービスが理由となって切り替えています。それ自体は悪いことではありませんが、価格やサービスだけが基準になってしまうとさまざまな弊害も生まれます。
現在の日本では、「発電コスト」に限れば電源として原発や石炭火力が安いことになっています。「安いことになっている」という表現をしたのには理由があります。実際は、どちらも適正な社会的なコストが省かれているので、実は長期的には決して割安とは言えないからです。
2016年末には、事故を起こした福島第一原発の廃炉費用や事故処理費用を誰がどのように負担するかという議論が行われました。試算では2013年に11兆円とされていましたが、今回は倍の21.5兆円にものぼることがわかりました。今後もこの費用は膨らむ可能性が大いにあります。
さらに、それ以外の原発でも廃炉費用の積立不足などが明らかになってきています。これら足りない分の一部を、電気を使う人全てに負担させるため、送電網使用料金(託送料金)に上乗せするという方向で話が進んでいます。本当に安いのなら、原発を使っていない新電力会社の使う送電網に上乗せするようなことはしないはずです。
また、石炭火力については、温室効果ガスを最も多く排出することで、長期的に見て環境に大きな負荷をかけるものです。そのような電源を長く使い続けることで、将来的には別のコストをかけて環境対策をしなければなりません。その環境コストは社会全体で負担するのに、発電して得られた利益は一部の企業のものになる、というのは問題です。
このように、「安い」というイメージのある原子力や石炭には、表に出にくい莫大なコストが隠されています。その「隠れたコスト」が含まれず、単に発電のためにかかる目先のコストだけで「どちらが安いのか」を判断するのはフェアではありません。
欧州では、石炭火力に対しては環境税が付加されるなど、「隠れたコスト」を見える化していこう、という動きが進んでいます。でも日本社会には国にも経済界にもそのような認識がなく、表面的な価格で安いと判断されてしまいます。
そのため、2020年以降に大型の石炭火力発電所が続々と新設される予定になっています。世界の先進国で気候変動の問題などを受けて、石炭火力発電所が閉鎖になったりする中で、これだけ多くの石炭火力発電所の新設を予定している国は日本だけです。電力自由化で多くの人が「表面的な安さ」ばかりを重視してしまうと、そのような動きが加速していってしまうのです。
図:日本の石炭火力発電所の設備容量。青が既存の設備で赤が新規建設予定の分(作成、気候ネットワーク)。
◆消費者か?参加者か?
ぼくたちは、スーパーで野菜を買ったり、携帯電話のキャリアを乗り換えるときは「少しでも価格が安い方」を選びがちです。でもぼくは、一円でも安いモノを選ぼうとして粗悪品を買ってしまい、結局損をした経験があります。
これを電力自由化で考えるとどうなるでしょうか?「電力の消費者」として考えれば、どこを選んでも得られる電気の質は同じです。だから粗悪品をつかまされることはありません。それこそ、安い方を選ぶ方が合理的に見えるかもしれません。
しかし、電源までさかのぼって社会的に考えれば、実は多くの人が損をする選択肢を選んでしまうリスクがあります。価格はもちろん大切です。でも電力については「消費者」という視点だけではなくて、「この社会を形作るメンバーの参加者」という視点も含めて選んで欲しいと思います。
◆電力自由化は「投票」と同じ
消費者か、参加者か、という問いかけは、必ずしも二者択一で選ぶ必要はありません。たとえ「自然エネルギー100%の電気」が手に入れられることになっても、その電気代が2倍3倍もしたらぼくだって支払えません。コストはもちろん重要ですよね。それでは現在「パワーシフトキャンペーン」などで紹介している自然エネルギー普及を目指す新電力は、どれくらいのコストがかかるのでしょうか?
パワーシフトキャンペーンで紹介している新電力会社リストの一部
電力会社やプランによっても異なりますが、おおまかに言って、今までの電気料金とほとんど変わらないと言っていいと思います。高くなる場合も、安くなる場合もありますが、おおむね3%から5%の範囲内と考えていただければ良いでしょう。詳しくは、普段使っている電気代をチェックしながらシミュレーションをしたり、直接新電力会社に問い合わせてみることをお勧めしますが、どこに切り替えても、価格が何十パーセントも変わるということはありません。
その反面、現時点では「自然エネルギー100%の電力」を購入することはできません。世の中は一気に変わるわけではありません。今はこれまで選択できなかったものが、少しずつ選択できるようになった段階です。では「自然エネルギーの割合をもっと増やしたい」と思っている一般の人は、どんな態度で関わればいいのでしょうか?
たとえ現在の自然ネルギーの割合が20%や30%程度であったとしても、その会社が将来的に自然エネルギーを増やそうというビジョンをしっかりと持っているなら、そのような会社を選んで、より割合を増やしていけるように応援して欲しいと思っています。
多くの人がそのような選択を取れば、社会に自然エネルギーのニーズがあることをしっかりと示すことができます。それは単にその会社の自然エネルギーの割合を増やすだけではなく、社会の中で自然エネルギーの存在感を増やすことにもつながります。
ぼくは、電力自由化は「投票」と同じだと考えています。今までは、電力会社を選ぶという「投票権」は与えられていませんでした。それが2016年から曲がりなりにも投票できるようになりました。選挙で投票するときも、自分にとって100点満点の候補者というのはなかなかいないですよね?だからといって選挙に行かないわけではありません。その中でよりマシな方を、一生懸命考えて選ぶ行為が、民主主義を形作るのです。
電力自由化についても同様で、現時点では100%満足できる選択肢はないかもしれません。それでも、今までよりは良い選択肢が登場してきました。にもかかわらず、いつまでも「よくわからない」「めんどうくさい」「満足のいく選択肢がない」と理由をつけて何もしなければ、これまでの大手電力会社に一票を入れているのと同じことになってしまいます。
もちろん、意識してこれまでの大手電力会社を選ぶなら、それはそれでいいと思います。いずれにしても、今までは持ち得なかった「電力会社を切り替える投票権を使う」という意識を持てるかどうかが大切になってくるように思います。
◆クラウドファンディングで育てる
電力自由化については、「投票」という視点の他に、「クラウドファンディング」というとらえ方もできます。クラウドファンディングは、人々が共感できるプロジェクトに少しずつお金を出し合い、プロジェクトが成立すると出したお金に応じてお礼なりプレゼントがついてくる仕組みです。自分が選択したいと思う未来に、具体的に参加して応援していくことができるのです。
電力自由化では、電気料金として支払ったお金の一部が、自然エネルギーの発電所やそういう発電所の電気を購入している会社に回ります。投票と違って、具体的にお金の流れが変わるというのは大きなことです。現時点で、自然エネルギーを広めようと新しく立ち上がった電力会社は、従来の大手電力会社に比べれば資金力、人材、ノウハウ、設備、どれをとってもまだまだ弱小です。それでも、さまざまな工夫をこらして厳しいビジネスの現場でサバイバルしていこうとしています。
そこで多くの人がクラウドファンディングとして、自分の希望に近い会社を応援していけば、弱小だった小売会社をたくましく育てていくこともできます。そのように電力自由化は、みんなで理想の電力会社を育てていくチャンスとしてとらえることもできるのです。
選択の際には、これまでぼくのリポートやパワーシフトキャンペーンのWEBサイトなどで、自然エネルギーの普及や地域活性化という視点から、お勧めする電力会社の一部を紹介しているので、参考にしていただけたらと思います。電力会社の切り替えがまだの方は、新年を迎えたこのタイミングで、一度切り替えてみてはいかがでしょうか?
◆ 関連リンク
・これまでの「全国ご当地エネルギーリポート」での新電力会社紹介
(数字は記事掲載時点のものなので最新のデータなどは各新電力会社にお問い合わせください)
・みんな電力(東京電力管内が対象),生活クラブエナジー(生活クラブの組合員が対象),中之条電力(群馬県中之条町が対象)
・Looop(全国展開),みやまスマートエネルギー(九州地域が対象)
◆好評発売中!高橋真樹の電力自由化についての著書
『そこが知りたい電力自由化〜自然エネルギーを選べるの?』(大月書店