第42回:非営利型株式会社で地域自立をめざす! – 市民エネルギーやまぐち | 全国ご当地エネルギーリポート!

全国ご当地エネルギーリポート!

-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

◆ きっかけは保守王国山口での県知事選

 鹿児島と屋久島の取材から戻ってきました。最後は台風に追いかけられながらでしたが、みなさんのご協力でなんとか無事に取材を終える事ができました。いま、九州電力をはじめ多くの電力会社が自然エネルギー設備の電気を送電線につなぐことを保留する状態になってきました。この件は、またあらためてこのリポートでもお伝えしたいと思いますが、これは「自然エネルギーが不安定だから起きている問題」では決してないということは伝えておきたいと思います。最大の問題はこの国のエネルギーシステムが、無限にあるはずの自然エネルギーを活かせない仕組みになっているということになります。それをどのように変えていくことができるのかが、今後のこの国を占う試金石になるといってもいいでしょう。

 さて、全国ご当地エネルギーリポートの第42回です。今回は、これまで自然エネルギーの取り組みに熱心というわけではなかった中国地方の山口県ではじまった新しいチャレンジについて紹介します。市民エネルギーやまぐちは、「非営利型株式会社」として2013年10月に設立されました。非営利型株式会社とは、事業の収益を経営者や株主ではなく、地域活動や公的なものに還元していこうという主旨を定款に掲げる組織です。

 また、市民エネルギーやまぐちでは、自身がひとつの事業者として、他の自然エネルギー事業者と同じ土俵で競争していくのではなく、他の事業者が参加できるプラットホームという場作りをしていくことで新しい社会ビジネスモデルをつくろうとしています。さまざまな業者がライバルになるのではなく、協力して山口県全体に自然エネルギーを広げようとしているのです。

 設立のきっかけは、環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長の飯田哲也さん(山口県出身)が、2012年7月の県知事選に出馬したことでした。知事選には敗れたものの、大いに盛り上がったその選挙戦を通じて、山口県内でさまざまな人たちがつながるきっかけができました。さらに翌2013年2月には、「コミュニティパワー国際会議2013」を山口県宇部市で開催。国内外から地域をベースにした自然エネルギーの先駆者が集った事で、山口県全体に「県民参加型の自然エネルギー」への機運が盛り上がりました。

width=
市民エネルギーやまぐち立ち上げに向けた勉強会(写真:市民エネルギーやまぐち)

 それまで山口県内の自然エネルギー事業者は、瀬戸内と日本海側、山口東部と西部など、どれもそれぞれがお互いを知らず、連携せずバラバラに動いていました。しかしようやくそれぞれの地域のキーマンがネットワークできるようになり、2013年初頭から勉強会やシンポジウムを重ねるようになっていきます。

 そして市民ファンドを活用した、山口県初の「県民参加型の自然エネルギー」を立ち上げる準備が進み、2013年10月には山口県各地の人々の参加と支援を受けながら、「市民エネルギーやまぐち株式会社」が発足しました。代表取締役には、阪神大震災を経験し、東日本大震災の復興支援も続けてきた坂井之泰さん(山口県周南市)が就任しました。

◆「21世紀型社会ビジネスモデル」で地域の自立をめざす

 市民エネルギーやまぐちは、「非営利型株式会社」、「利益三等分の原則」、そして「プラットホーム型組織」という3つの特徴ある仕組みを活用した21世紀型の新しい社会ビジネスモデルを実現しようとしています。

 非営利型株式会社とは、自然エネルギー事業から得た収益で地域に還元していこうスタイルの会社です。長期的には売電収入による地域への貢献をめざしていますが、それに加えて、市民ファンドでは2013年7月に発生した山口の豪雨災害への寄付金も含んだ形での募集を行いました。

 「利益三等分の原則」とは、地域協働の理念を具体化したものです。これまで自然エネルギー設備を設置する場合、ほとんどが設置事業者がお金と土地を持っているオーナーに声をかける、いわば「押し売り型」が主流でした。例えば50キロワットの太陽光発電を設置する場合、約1,500万円の初期投資とおよそ250坪の土地が必要です。順調に発電できればオーナーは長年かけて初期投資を回収できるのですが、事業者の方は設置した初年度に利益をあげてそれっきりの関係になってしまいます。

 そもそもこのモデルでは、お金と土地と両方を持っている人しかオーナーになれず、そのような人はごく少数に限られてしまいます。当然、設置事業者同士でパイの奪い合いが起こり、わずかな業者しか勝ち残れません。また、勝ち残った事業者も利益が上がるのは設備を設置する一度だけで、安定した収入になる訳ではありません。さらに大きな視点から見ると、このモデルで多少なりとも利益が出るのはオーナー個人と一部の事業者のみで、地域にとってのメリットはほとんどないのです。もし事業者が県外であればなおさらです。

 そこで市民エネルギーやまぐちは、自らが設置工事などを手がける事業者になるのではなく、県内各地の事業者が協働できるプラットホーム型の社会ビジネスモデルを立ち上げました。そこに集った事業者が競合するのではなく協力することで、地域の自然エネルギー産業を育成しようという狙いがあるのです。


市民エネルギーやまぐち取締役の平尾譲二さん

 初期投資は金融機関からの融資と市民ファンドでまかなえるため、土地はあるけれど資金がないというオーナーも参加できるようになります。これでパイそのものが広がりました。そして、「利益三等分の原則」によって地域還元をめざす「市民エネルギーやまぐち」と、設置事業者、そして土地オーナーの3者に売電収益が分配されることになります。オーナーの初期投資の負担は減り、事業者も初年度だけでなく長期間にわたって収益が入るのです。この枠組みが機能することで、3者だけでなく、地域全体にも利益をもたらす仕組みになるのです。

 「非営利型株式会社」「利益三等分の原則」「プラットホーム型組織」というチャレンジはスタートしたばかりですが、今後は山口をモデルにして、他の地域でも取り組まれていく可能性があります。山口では2014年4月現在、参加している太陽光発電事業者は4つで、内訳は周南市に2つ、山口市に1つ、岩国市に1つとなっています。2014年度は各地の事業者が持ち寄った案件をもとに、約4.5億円をかけて合計出力1,200キロワットの太陽光発電事業をすすめています。

◆豪雨災害と市民ファンドの募集

 主な資金は、準備段階から相談に加わっていた萩山口信用金庫が融資をすることになっています。また、2014年1月に募集を開始した市民ファンドでは、合計で約3億円を集める予定としていました。

width=
萩市内での豪雨被害(写真:市民エネルギーやまぐち)

 その市民ファンドの仕組みづくりを進めていた矢先の2013年7月、山口県全土を豪雨災害が襲います。特に、県中央部の山口市と北東部の萩市、阿武町では大きな被害が出ました。そこで市民ファンドには、ともとの売電収益での地域貢献に加え、急遽、豪雨災害への寄付金もつけた形で市民ファンドを募集することにしました。内容は、市民ファンドの一部が寄付金になるというものです。一口10万円のA号はそのうち寄付金が1万円、一口100万円のB号はそのうち寄付金が5万円含まれることになりました。

 寄付金が使われる先のひとつは、萩市で全損被害を受けた、銘酒「東洋美人」で知られる酒造会社「澄川酒造場」です。被害から立ち直り、2ヶ月遅れで何とか酒の仕込みができるようになったため、寄付のお礼として復活を遂げた澄川酒造場のお酒や、やはり豪雨災害で被災した阿東のりんごジャム・阿武の野菜セットなどが送られることになっています。


寄付してくれた人にお返しとして送られる澄川酒造場のお酒「環起」のラベル

 この豪雨災害で被災した地域への寄付を織り込んだ「みんなで応援やまぐちソーラーファンド2014」は2014年8月22日で終え、後は事業支援のための「やまぐちソーラーファンド2014」を11月末まで募集する予定です。ご興味のある方は、株式会社自然エネルギー市民ファンドのホームページをご覧ください。


市民エネルギーやまぐち代表取締役 坂井之泰さん

 市民エネルギーやまぐちの取り組みは新しいビジネスモデルだけに、多くの事業者に広げるには時間がかかると思いますが、今後は発電設備や参加事業者を山口県全域に広め、さらに県外の事業者のアドバイザー的な存在にもなっていきたいという構想を描いています。市民エネルギーやまぐちの代表取締役である坂井之泰さんは、「この取り組みを通して、それまで地域ごとにバラバラだった山口がさまざまな意味でつながっていくきっかけになればいい」と語っています。

◆市民エネルギーやまぐちの活動を知りたい方はこちらへ
市民エネルギーやまぐち株式会社
株式会社自然エネルギー市民ファンド