第12回:神奈川県相模原市・藤野電力〜オフグリッドな地域をめざして(関東・太陽光)   | 全国ご当地エネルギーリポート!

全国ご当地エネルギーリポート!

-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

❒設立のきっかけ – 電力自給の町づくりを手がける

 ワクワクするような自然エネルギーの取り組みを伝える「高橋真樹が行く 全国ご当地電力レポート!」。今回取り上げるのは、神奈川県旧藤野町(現相模原市の一部)を拠点に活動するユニークなグループ、「藤野電力」です。電力という名前が付いていますが、前回紹介した「会津電力」のような会社組織ではなく、福島第一原発事故をきっかけに立ち上がった住民が運営するグループ(任意団体)になります。藤野電力は、ミニ太陽光発電キットをつくるワークショップを全国で開催するなど、電気を少しずつ自給しながら、持続可能なライフスタイルをめざして活動を続けています。

$全国ご当地電力リポート!
ミニ太陽光発電キットづくりのワークショップで、照明が点灯して驚く参加者

 藤野電力の母体となったのは、「トランジション・タウン藤野」という地域に根ざしたゆるやかなネットワーク組織です。2005年にイギリスではじまったトランジション・タウン運動は、過度に消費社会が進み、化石燃料を使用し続け、環境汚染を招いている現在の社会を転換することをめざす活動で、それ以降、世界各地に普及するようになりました。2008年には日本でもトランジション・ジャパンが設立され、各地でそれぞれの地域の実情にあわせた形で活動をすすめています。
 
 トランジション・タウン藤野のメンバーは、森を手入れして間伐材を活かす活動や、地域通貨を導入するなど、持続可能な地域を作るための活動を活発にしてきました。そして、3・11の震災と原発事故をきっかけに、これまでブラックボックスになっていた電気も自分たちで手がけようと考えたのです。

 藤野電力は、大きな発電設備を作ることをめざしているわけではありません。比較的小さな電力を自らの手で生み出すことをきっかけに、人々の意識を変えていこうという、教育的な面がベースにあるからです。一方で、独立電源を各地に作り、電力会社への依存度を減らしていくという具体的な設備の設置も増やしています。教育と実務の両面から、地域での電力自給を少しずつ高めていくさまざまな活動をすすめているのです。

$全国ご当地電力リポート!
旧牧郷小学校の裏山に設置された72枚の太陽光パネル

❒特徴 — 手作りで小さな電力を効果的に活用

 藤野電力の最大の特徴は、事業として活動するのではなく、それまで電気のことは大手電力会社がやるものだと考えていた多くの人たちに気づきを与えるきっかけをつくっていることにあります。そのため専従スタッフも置かず、活動経費も少ないのですが、逆に組織を維持するために活動する必要がないので、自由なチャレンジをすることができるというメリットもあります。実際にぼくが接した藤野電力のスタッフの方たちは、「忙しけれど、楽しくて仕方がない」という感覚で仕事をしていました。

 藤野電力の代名詞のような活動になっている、ミニ太陽光発電キットづくりのワークショップは、50ワットの太陽光発電パネルを使って、自分だけの小さな発電所をつくる取り組みで、やり方が分かれば子どもでも組み立てられる簡単なものです。それでも、照明や扇風機はもちろん、パソコンや携帯電話の充電には十分使える非常用電源として機能します。このワークショップは全国に出張して開催を続け、2013年11月時点で、1000人以上がキット制作を経験しました。

 また藤野電力では、活動の拠点となっている廃校(旧牧郷小学校)の電力を、100%自然エネルギーに変えるプロジェクトも2012年から手がけて、2013年10月の段階でシステムを完成させました。これは、大学の研究室から譲ってもらった古い太陽光パネル72枚を利用して、3キロワットの発電システムを設置したものです。古いパネルでも十分に発電能力はあり、古い校舎のエネルギーを、古いパネルで蘇らせるという新しい試みになりました。何でもお金をかければ良い、という世の中に一石を投じる素敵な発想だと思います。

 藤野電力ではこれまで、数々のイベントを自然エネルギーの電気を活用して実施してきましたが、中でも最も力を入れているのがこの旧牧郷小学校を舞台に毎年実施されるひかり祭りです。ひかり祭りは、アーティストの多い藤野で、「廃校から希望の光を灯す」ことを掲げて開催されてきた地域のイベントです。2013年は記念すべき10周年となり、10月25日~27日の3日間にわたって行われました。

$全国ご当地電力リポート!
2012年のひかり祭りの様子
 
 2013年のひかり祭りの様子や、そのお披露目となった牧郷小学校100%自給ひかり祭りの様子と「旧牧郷小学校100%自然エネルギープロジェクト」については、オルタナの記事で報告しています。こちらからご覧ください。

 藤野電力では、他にも町の各地に非常用電源を設置したり、家屋に太陽光パネル2枚分だけの電気を使えるコンセントを導入したりと、新しいスタイルの活動を実施しています。小規模で、事業性がないとはいえ、さまざまなアイデアを出しあい、住民主体でエネルギーを通した町づくりを実践しているという意味では、全国のご当地電力の中でも極めてユニークな存在になっています。

❒キーパーソンからのメッセージ

藤野電力の小田嶋電哲さんからは、このようなメッセ—ジをいただきました。

ミニ太陽光発電キットを作るワークショップを始めた理由は、こんなふうにも自分で電気が作れるということを実感してもらいたかったからです。東日本大震災の時のように停電になっても安心できるように、照明やパソコン、携帯の充電が使えるシステムにしました。それがいろいろなところで評判をよんで、今では全国から出張ワークショップの依頼が来るようになりましたし、よそでも似たようなことを始めたグループもたくさんあります。

こうして活動が広がっていった理由は、石油や原子力に依存しなくてもぼくらは生きることができるというメッセージが、ちゃんと伝わった結果なのだろうと思っています。原子力から自然エネルギーに設備を変えることは大事ですが、それよりもっと根本的に大事なのは、人の意識とか心の部分を変えることだと思っています。これからもそうした気づきを作れるようなものを、ひとつひとつ形にしていけたらいいですね。

$全国ご当地電力リポート!
ワークショップでアドバイスをする小田嶋電哲さん(提供:藤野電力)

❒感想として - 逆転の発想が常識を変える

 藤野電力の取材には、この1年半ほどで5回ほど行きましたが、訪れるたびに気づかされることがあります。それは常識にとらわれず、自分たちに引きつけて考えることで、いろいろな突破口が見えてくるということです。
 
 わずか50ワットの電力を使いこなすところから考えようと呼びかける藤野電力の活動は、すべての活動を合わせても発電量そのものは取るに足らない量かもしれません。でも、これまで自分たちの手の届かないところにあると思い込んでいた電力を、手作りレベルで生み出せることを実感するというのは、とても大きな変化につながります。

 またそれは、これまでの日本社会のエネルギーシステムのあり方を問いなおすことにもなるはずです。電力会社などは、まず巨大な発電所をつくり、それから消費する方法を考えるというやり方で、日本全体の電力消費量を増やしてきました。でも、私たちの生活に本当に必要な電力ってどれくらいなの?と考えるところから初めれば、たった50ワットでも結構できることが多いことに気づくのではないでしょうか。その逆転の発想が、大事なことを気づかせてくれるのだと思います。

ぼくは国内外の自然エネルギーの地域での取り組みを取材して、これまで200人以上の人たちにインタビューをさせてもらいました。その人たちが語った内容に共通するキーワードをひとつ挙げるとすれば、「知恵と創造力が未来をつくる」だと感じています。既存のシステムに縛られて「どうせできっこない」というあきらめが蔓延している社会ですが、考え方を変えれば意外とできることがたくさんあることに気がつくものです。エネルギーを通してそれを気づかせてくれている藤野電力の活動は、まさにそのことを体現している、小さいけれど大きな取り組みではないかと思います。今後、藤野電力がどんな取り組みをするのか、今からワクワクしています。

$全国ご当地電力リポート!
誰もが利用できる太陽光充電ステーションを設置

藤野電力の活動をさらに詳しく知りたい方、関連団体の情報などはこちらのリンクからどうぞ。

藤野電力ホームページ

藤野電力facebook

トランジション藤野facebook

ひかり祭り