第1回:神奈川県小田原市・ほうとくエネルギー | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

❒ ご当地電力全国めぐりがはじまります!

 はじめまして。ノンフィクションライターの高橋真樹(まさき)です。昨年末に北海道から九州まで全国を取材して、『自然エネルギー革命をはじめよう-地域でつくるみんなの電力』(大月書店)という本を出版しました。この本の取材・執筆を通じて感じたことは、ひとことで言えば、エネルギーシフトの実現は、単に原発から自然エネルギーに電源を変えれば済むわけではないということでした。

 それぞれの地域が抱えている課題は、たとえ自然エネルギー設備であっても、国や大企業が巨大な発電設備をつくることだけでは解決しません。小規模でも、地域に暮らす人たち自身が自分たちの未来を考え、地元にメリットのある形で持続可能な社会をつくっていくかという点がポイントになってくるように思います。

 世界的にも、エネルギーシフトがうまくいっている地域では、小回りの効かない大規模集中型の発電設備から地域の人が参加する小規模分散型への流れが起きてきています。そうした意味で、エネ経会議のみなさんが取り組もうとしている地域エネルギー事業は、非常に重要になってくると考えています。

 現在、日本全国で面白い取り組みが動いているのですが、まとめて情報を手に入れられるサイトがほとんどありません。そこで、ぼくと自然エネルギーに取り組んでいこうという経営者の方の集まりであるエネ経会議さん(正式名は、エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議)で連携して、「全国ご当地電力レポート」と題し、あちこちを訪ねて地域や市民によるエネルギー事業をまとめていくことになりました。

 このブログでいろいろな活動や取り組んでいる人たちを紹介していこうと考えています。いずれ皆さんの地域にも訪問させていただくかもしれません。どうぞよろしくお願いします!
 
それでは、今回のレポートをお届けします。第1回で取り上げるのは、皆さんご存知の小田原のほうとくエネルギー株式会社(以下:ほうとくエネルギー)です。

❒「ほうとく思想」をベースに電力の地産地消をめざす!

 ほうとくエネルギーは、行政とのパートナーシップのもとで2012年12月に設立された小田原地域のエネルギー事業会社です。会社名の「ほうとく」は、小田原出身で江戸時代の思想家、二宮尊徳の掲げた「報徳思想」からきています。と言っても小学校の入り口に立っている尊徳さん(金次郎さん)の存在はしっていても、「報徳思想」について知っている人はあまりいませんよね?それについては一番下に少しだけ注を入れています。

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ほうとくエネルギーのロゴマークには、二宮尊徳さんが描かれています。

 設立のきっかけは、東日本大震災が起きた際に小田原に全く人が訪れなくなったことに地元の企業経営者が危機感をつのらせたことにはじまります。小田原の主要産業は観光業やサービス業ですが、原発事故による放射能被害や停電、観光客の激減といった状況を前に、エネルギーの一極集中に対する危うさを多くの人が感じたといいます。そこからエネルギーをなるべく地域で自給していこうという声が上がり、小田原市も積極的に動きました。

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イベント「小田原電力はじまります!」のパネルディスカッションの様子(2013年3月)

 2011年7月には、加藤憲一市長とISEP飯田哲也所長が参加した公開アドバイザー会議が開催されます。そこで提案された「小田原電力」構想のもとで、具体的な動きの模索がはじまります。その後、小田原市が環境省の「平成23年度地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」に申請し、採択されたことで「小田原再生可能エネルギー事業化検討協議会」が設立。協議会での1年以上議論を経て、自治体のバックアップの元、住民主体で事業を進めていく組織として誕生したのが、ほうとくエネルギーです。


 ほうとくエネルギーは、小田原市内の企業24社が資本金3,400万円を出し合い設立。事業としては、公共施設の屋根貸し太陽光発電と、市民出資を募ってメガソーラー事業を当面の柱としながら、かつて地域で行われていた小水力発電の可能性についても探るなど、幅広く地域のエネルギー自給に向けて取り組んでいます。

 ステークホルダー(利害関係者)としてカギを握る小田原市は、事業化検討協議会を通じたイニシアチブや公共施設の屋根貸しなど積極的に推進の姿勢を取っています。また、地域の金融機関であるさがみ信用金庫が融資を行います。一般社団法人小田原市電設協力会が地元電気店の組織化や、発電所の維持管理を委託するなど、まさに地域ぐるみで協力関係を築いていると言えるでしょう。

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地域でエネルギーにとりくむ重要性について語る加藤憲一小田原市長

❒特徴は、地域の歴史や文化に根ざした取り組み

ほうとくエネルギーの特徴は、それまで町づくりに関わってきた地元の商工業者を中心としたコミュニティがすでにあったこと。そこと行政が密接にチームを組んで、どうすれば地域のメリットになるかという方向性を決めてきたことです。

また、当初は長野県飯田市で太陽光発電設備を広めた、おひさま進歩エネルギーの例を参考に、公共事業の屋根貸し太陽光事業を検討していました。これで進めるのですが、調査を進める中でメガソーラー事業の可能性も出てきたため、複数の事業モデルを選択肢に加えました。そうした地域の実情にあわせた柔軟な姿勢もポイントの一つになっています。

 城下町という歴史と伝統のある小田原の取り組みは、地域の郷土や文化に根ざした活動にしていくことをめざしています。例えば、ほうとくエネルギーは、大正時代から終戦まで使用されていた、小田原市久野山林にある大正時代につくられた小水力発電跡地の整備事業にも参加しています。

 ぼくも2013年8月10日に行われた2回目の掘り起こし作業を取材しました。炎天下にもかかわらず、町づくりに関わる多くの人たちが参加した作業は重労働でしたが、わきあいあいとしたもので、地域を盛り上げていこうという気概が感じられました。当日の報告は、ソーシャルビジネスマガジンの「オルタナ」WEB版に掲載していますので、コチラを御覧ください。 

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2013年6月に実施した第一回目の作業で、水路に積もった土や落ち葉を取り除く
(提供:ほうとくエネルギー株式会社)


 この小水力発電所は、調査の上で可能性があるようであれば再び発電所として動かす計画も有るようです。楽しみですね。

 このように、日本全国にはかつて各地で小水力発電が盛んに行われていたんですね。小田原のように地域で行われていたエネルギー事業を掘り起こしていくことは、地域のエネルギー資源を再発見するというだけでなく、地域に根ざした暮らしや生き方とは何かを問い直すことにもつながると思います。

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8月に行われた第二回目の作業では、発電機跡地で丸太を運び出した

❒現在は太陽光、将来は小水力発電も

小田原市の公共施設に設置する屋根貸し太陽光事業は、第一弾として小学校2ヶ所と曽我みのり館(集会所)の計3ヶ所で合計約120キロワットを設置することが決定しています。発電開始は2013年初頭のめざして準備中。また、最初のメガソーラー事業は小田原市久野の山林を整備して設置、2014年夏の発電開始に向けて準備中です。このプロジェクトには、市民からの出資を入れる予定にしています。いずれも事業を円滑に進めるために発電した電気は売電されますが、停電時には対象施設に電力供給を行うことができるという契約になっています。

小学校の屋根への設置は災害対策として有効なので、将来的には小田原市内のすべての小学校に設置することも視野に入れています。さらに、先ほども触れたような農業用水路を利用した小水力発電プロジェクトの実施についても調査中です。

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作業できれいになった水路
 
❒キーパーソンからのメッセージ

事業化に向けて奔走してきたほうとくエネルギー副社長の志澤昌彦さんからは、このようなメッセージをいただきました。
「二宮尊徳さんの報徳思想のひとつには、「分度」という考え方があります。これは、地域の適正を見極めて、作物が10採れる地域であれば、消費を8で抑えれば持続可能になるという教えです。残った2はどうするのか、地域の未来のために使えばいいと言っているのです。これはまさに今の私たちに必要な考え方でもありますし、地域の適正を活かしたエネルギーづくりにも活かせる発想です。地域に合わない、無理なことをしようとしたら続かないわけですから。
 小田原は平坦な地形なので、風力発電もできませんし、自然エネルギーのポテンシャルが高いとは言えない場所です。でも神奈川全体では、エネルギー資源が豊富な地域もあります。私たちの取り組みを見て、神奈川県のいろいろな地域の人が、それぞれの特徴を活かしたプロジェクトを進めてくれたら、面白いことになるはずです。そうなれば私たちも小田原という枠を越えて、神奈川県の広域で市民エネルギーの連携をしていきたいと考えています。」

$全国ご当地電力リポート!-ほうとくエネルギーの志澤昌彦さん
ほうとくエネルギーの志澤昌彦さん

❒まとめとして

 お話を伺って面白い点はたくさんあったのですが、実はぼく、小田原のエネルギー事業会社が「ほうとくエネルギー」という名前になると聞いて、最初は「なんじゃそれ?」と思ってしまったんです(すみません・・・笑)。「小田原電力」のほうがしっくりくるんじゃないかと。
 
 でも、志澤さんや関わっている方たちのお話を聞いて、二宮尊徳の掲げた持続可能性を大事にする考え方が、自然エネルギーの地域での活用にすごくしっくりくるんですよね。遅まきながらこの考え方はすごいなと最近やっとわかってきましたし、それを会社名にした皆さんの意気込みも伝わって来ました。

 そこにはまずは小田原からだけど、地域を越えて活動した二宮尊徳のように、小田原だけに特化せず広げていくという思いも含まれているようにも思います。地域の文化や思想に根ざして新しい挑戦をやっていくことってステキですよね。これからもこんな感じで全国の事例をお伝えしますので、よろしくお願いします!

★追加情報
2014年3月末の小田原ほうとくエネルギーの最新報告はこちら!


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小水力発電跡地にて(提供:ほうとくエネルギー株式会社)

※報徳思想とは?
 江戸時代に村落の財政再建などを成し遂げた二宮尊徳の思想。経済と道徳の融和を訴え、私利私欲に走るのではなく、 社会に貢献すれば、いずれ自らに還元されると説いている。報徳の三要素は「勤労」「分度」「推譲」。「分度」とは、経済的には、収入の枠内で計画的に一定の余剰を残しながら支出をする生活のこと。この余剰が、未来の基礎的な資源になる。「推譲」は、分度生活の中から生み出した余剰の一部を各人が分に応じて拠出すること。これが報徳資金になり、相互扶助、公共資本あるいは弱者、困窮者救済にあてられ、家政再建、町村復興、国づくりの資本となる。あらゆるものの「循環」を大切にすることで財政再建ができると提唱した尊徳の教えは、現在でも有効な教えになっている。

小田原には報徳博物館もあります。ぜひ訪れてみてください。
報徳博物館~二宮尊徳の人づくり国づくり世界~

※ほうとくエネルギーの活動をさらに詳しく知りたい方、関連団体の最新情報などはこちらのリンクからどうぞ。
ほうとくエネルギー株式会社

小田原再生可能エネルギー事業化検討協議会

ISEP研究員、古屋将太氏によるWEBリポート(SYNODOS)


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高橋真樹著『自然エネルギー革命をはじめよう 地域でつくるみんなの電力』



本の紹介動画はコチラ