フィンランドのエネルギー事情 | エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議

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                片野 俊雄

                テクニカルアドバイザー



日本でもようやく原発のゴミ処理問題がクローズアップされてきた。今回は、世界初の核のゴミ処分地を建設中のフィンランドのエネルギー事情を探ってみることにする。

2002年5月、フィンランドが原発の新設を決めたニュースは世界に波紋を広げた。    チェルノブイリ原発事故によって先進諸国は原発建設に及び腰になっていたからだ。
フィンランド南西部西スオミ州、ボスニア湾に面するオルキルオト島。この小さな島で、現在世界最大級のオルキルオト原子力発電所3号機が建設中である。
出力160万キロワットの欧州加圧水型炉(EPR)を採用している。                フランスのアレバ社が原子炉部分、ドイツのシーメンス社がタービンなど発電部分を
担当することで当初の契約が結ばれた。   
設計上の耐用年数は60年と長い。この次世代原発の行く末が、世界の原発建設の今後に大きく影響を与えるのは間違いない。福島第一原発の事故後、新設原発には一段と厳しい安全性が求められている。    
EPRの安全性の特色は、緊急事態や重大事故に対して何重もの防護壁を備えた設計思想と、プラントの特殊構造にあるという。原子炉の格納容器は二重構造にしてさらにがんじょうにして、飛行機の衝突事故にも耐えられる設計にした。また万が一、外部電源が喪失する事態がおきたときのために非常用デイーゼル発電機が4台ある他、この4台とは別個に、
発電所の停電に備えた発電機が2台備え付けられている。
原子炉建屋の周囲には4つの独立した安全対策用の構造物がある。隣接した場所を燃料建屋が占め、残りの3方向に計4つの「セーフガード・ビル」がつくられている。
原子炉の圧力容器に異変が生じた時は、それぞれのビルから冷却水を注入し、燃料棒から出る熱を取り出す。それぞれのシステムは完全に別個に独立して動けるように設計されている。
ところが本原発は、建設中に続発するトラブル、それに伴う工期の大幅な遅れと、
建設コストの大幅な増大が発生したのだ。
2003年に原発を所有し運転するフィンランドのTVO社がアレバ社などと契約を交わした時の運転開始予定は、2009年、それまでの投資予定額は3,000億円だった。
ところが運転開始の時はどんどんずれ込み2014年になるという。
最終投資額は当初の倍の6,000億円になるという。
コスト負担をめぐるTVO社とアレバ社の交渉はもつれたままだ。
これがアレバ社の現在の経営危機の一端になっているとマスコミは報じている。



欧州にはEPRへの疑問が広がりつつある。安全な原発が出来上がっても、コストが引き合わなければ、フィンランドの産業界や投資家の手元には期待する利益は入らない。
「原発の電力は低価格」という神話はもろくも崩れ去りつつある。日本でも公にガラス張りで建設・改造・核ゴミ処理・廃炉のコスト議論をしてみたらどうなのか。その上でどうするのかを決めるべきだと筆者は考えている。
このオルキルオト島ではもう一箇所、原発で使用済みとなった核燃料を地下深くに貯蔵するオンカロ最終処分場がある。2020年に予定通り開設されれば世界初の最終処分場になる。なぜ、この島が選ばれたかというと都市から遠く離れた過疎地であり、島にはほとんど人が住んでいなく、一帯の地盤が硬く、安定しているという地質学的な要因がある。
原発で使われた核燃料は高熱を出し続けるため、原発内の中間貯蔵プールで数十年かけて一定の温度まで下げた後、この地下500メートルの最終処分場に運ばれる。
原発を運転すれば、結果として、「核のゴミ」が生まれ、処分しなければならない。
フィンランドはその責任を自ら率先して果たしているだけという議論は十分成り立つ。
使用済み核燃料の最終処分地の建設については、世界中で住民の反対運動が強い。
欧州各国で立地場所探しが進んでいるが、実現のメドが立っているのはフィンランドだけだ。未来の世代に悪影響と負担を残さないよう、「核のゴミ」は原発を建設した現世代の負担で処分するという考え方だ。余談だが、小泉元首相はこのオルキルオト島を一昨年訪ねて、脱原発派に急変したという。

そもそも北欧のフィンランドがなぜ、原発を推進するのだろうか。欧州の最北部に位置するこの国の国土面積は340平方キロメートルと日本よりやや小さく、人口はわずか540万人。   
西隣のスエーデンの属領であった時代が長かった。19世紀初めには東隣の帝政ロシアに支配されたが、1917年に独立を達成した。この国の魅力はなんといっても、国土をおおう森林と湖であろう。この自然条件はエネルギー政策の足かせにもなっている。
山岳部の多いノルウエーやスエーデンと異なり、この国では平野部が多く、水力には恵まれない。逆に森林のめぐみは大きく、木材燃料は2割を占めている。輸入化石燃料は5割、原発は2割弱だ。
フィンランドのエネルギー政策を理解する上でもう一つ欠かせないのが、隣国ロシアとの関係だ。フィンランドは国内の電力需給に従って周辺国と電力を融通しあっているが、ロシアの電力価格が安いことが多い。国内の年間需要に占めるロシアからの輸入比率は最大20%に達しているという。フィンランドの東部には、パイプラインを通じて、ロシア製の天然ガスも来ている。この国は1930年代末からソ連と2度にわたる戦争を強いられ、一部の領土を奪われた。近年はロシアが天然ガスの供給をめぐって、ウクライナなどと摩擦を起こしている。
エネルギー業界の関係者は、「ロシアにエネルギーを頼る状態から早く抜け出したい」と言う。


こういう背景の中で地球温暖化とエネルギーの安定供給のために、原発と再生可能エネルギー(木材バイオマスが中心)という「クリーン・エネルギー」が必要だというのが、政府の論理だ。国民もそれを選択している。

原発を推進しているフィンランドは余裕を持って進んでいる訳でもなく、現実を直視して可能な限り未来の世代に負担を残さずに山積する課題と格闘しながら、一歩一歩前に進んでいる姿に見える。
それに比べて今の日本は、未来の世代のことを考えずにその場しのぎのエネルギー政策を進めているようにしか筆者には思えない。
日本エネルギー政策は、未来をきちんと見据えた透明性のある議論によって国民の合意でエネルギーの選択がなされることを切に願う。