自然エネルギー推進会議 講演会 | エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議

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表題の講演会に鈴木代表の代理として出席してきた。

ちなみに、鈴木代表は賛同人の一人として名を連ねている。
当日(7月18日)は小泉、細川元首相はもとより、鳩山、菅元首相も参列しており首相経験者4名が揃うという珍しいもので、メディアも多数取材に来ていた。

講演は題名【ロビンス博士が語る「新しい火の創造」】でした。講演者のエイモリー・ロビンス博士は米国、ロッキーマウンテン研究所共同創設者で40年以上に渡って、米国エネルギー省をはじめとする各国政府機関や、大手企業のアドバイザーをつとめている。

講演は90分でスライド38枚に渡るものであった。私が気付いたポイントをまとめてみる。

◆ 3.11以降全く逆のエネルギー政策により日本には損失が、ドイツには成功がもたらされた。
☆政策戦略
 日本:もっと輸入化石燃料を燃やす
 ドイツ:エネルギー効率化と再生可能エネルギーへの転換
☆結果
 日本:経済成長力は弱まり、化石燃料輸入量が増加(LNG輸入量世界第1位、石炭輸入量世界第2位、石油輸入量世界第3位)、電力小売り価格は20%以上上昇
 ドイツ:世界第4位の経済国、ヨーロッパ第一の経済、化石燃料輸入減少中(石炭-4%、石油-5%、ガス-6%)、電力卸売価格60%以上下落。
☆政策の焦点
 日本:巨大電力会社を競争から守り、卸電力市場に義務つけなし
 ドイツ:完全かつ公平な競争、卸電力市場の義務つけ、電力取引の透明性

◆効率性が向上するにつれ電力需要は低下する
 ☆米国の例では1950-1980年代では毎年平均5%以上電力使用量が増加していたが、2010年以降予測では予測では1~2%の増加、効率向上を行えばマイナスとなる。
  効率向上の例
  -エンパイアステートビルのエネルギー効率改善統合リデザイン(窓の付け替え、遮熱シート取り付け、デジタル制御、可変風量空調機、照明)により設備投資額は3年で取り戻せる。
  -ローム本社ビルでも44%省エネにより、設備投資は2年で取り戻せた。
  -自宅(コロラド州:冬は-44℃になる事もある)ではエアコン要らず、2月でも室内でバナナが採れる。
  -工場ではポンプが一番電力を食うので配管設備を見直すことにより省エネが実現できる。
 ☆結論
  新しい技術開発なしで再設計することで大幅な効率化が実現できる

◆再生可能エネルギーのコストは引き続き下落する、特に太陽光では顕著
 ☆米国の例では、風況や日照の良い場所に設置すれば新しいガス、コンバインドサイクル発電所からの電力の平均価格よりも安価になった。言いかえれば再生可能エネルギーは原子力の何倍も安い。
 ☆大聖堂のような大規模発電所を作るより、分散化した再生可能エネルギーによる発電所を作る方が理にかなっている。なので世界の市場は原子力から分散型再生可能エネルギーへシフトしている。
 ☆世界の発電量を見ると、2010年以降の再生可能エネルギーの実績は1980年から1990年にかけての原発の発電量実績をしのぐ勢いである。

◆「ベースロード電源は時代遅れになりつつある。火力や原子力はもはや常時運転する必要はなく.....
むしろ二度と必要ないかもしれない」という2009年4月の米国連邦エネルギー規制委員会委員長の言葉は正しい。
 ☆再生可能エネルギーの出力は変動するというのは事実だが、変動は極めて正確に予測できる。従って多様な再生可能エネルギーの組み合わせと蓄電により需要に対応できる計画を立てることが可能である。


筆者が思っていることであるが、世界で起こっている現象を見るに日本の政策は時代遅れのものになっているのではないかという感がぬぐえない。
例としては以下の事実である。
-アメリカが原発技術を日本の会社に売っている。GEしかり、ウェスティングハウスしかり、米国は本当に大事な技術を他国に売り渡すことはしない。(戦闘機の例を見れば明らか)
-原発大国フランスでも再生可能エネルギーへの取り組みが行われている。
-ヨーロッパでは再生可能エネルギーへのシフトが行われ、実績数字として顕著なのがドイツである。それを目の当たりにしたフランス(シーメンスは原発からあっさり手を引いた)は本気で再生エネルギーへの取り組みを考えている。
-米国、フランスは過去に開発した原発技術を開発途上国に売り(日本が先兵か?)そのライセンス料で儲けようとしているのではないか。

第2次大戦では航空機が主力になるということを見誤り、大艦巨砲主義に陥ったことは記憶に新しい。原発停止を倫理の観点から主張することは勿論正しいと思うが、技術トレンドからみても原発ベースロード政策を推進しようとすることは誤っているというのが今回の講演内容であった。

再生可能エネルギーは高く、安定供給にもそぐわない、故に日本は原発をベースロード電源としてエネルギーの供給を考える。この考え方が間違っていたら、結果日本は競争力を更に弱めていくことになる。本当にエネルギーから経済の在り方は今のままでいいのか、一人一人が自分の問題として考えるべきであろう。

本当は問題はもっと複合的であるはずである。例え原発を全て稼働させたとして、日本の現状エネルギーコストはアメリカの2倍とも3倍とも言われているから、日本の製鉄業が同じものを生産していたら競争力はなくなる。
シェールガスから化学製品が作られると、従来の石油化学工業という言葉が死語になるくらい産業構造が変わってしまう。その時はエネルギーだけ考えてそのコスト云々では産業競争力は決まらない。原料と消費地がどこかが重要なファクターとなる。
そのように考えれば、加工貿易立国ということすら根底から考え直す時点に来ているのかもしれない。

エネルギー、水、食料が先ず人間には必要なのである。幸い再生可能エネルギーを日本のエネルギー資源と考えれば日本は基本的な自然の恵みがある。この利点を活かした国の在り方を考え直す時であろう。福島の災害をみても誤ったエネルギー政策をとれば本来恵まれているはずの水、食料が危うくなることを忘れてはならないと思う。

事務局 山口伸