湘南藤沢徳洲会病院 内視鏡内科の医師、永田充です。
「ピロリ菌は除菌した方がいい」
そう言われる一方で、
「除菌すると、逆に食道がんが増えるのでは?」
そんな話を聞いたことがある方もいるかもしれません。
実際に不安に感じている方も多いポイントです。
この点について、長年議論がありましたが、
実は大規模なデータで一つの答えが示されています。
ピロリ菌の除菌で食道がんが増える?
食道がんの種類の一つに、食道腺がんがあります。
このタイプの食道がんは胃酸の逆流が原因の一つとされていますが
ピロリ菌に感染すると
→胃の粘膜が萎縮
→胃酸の分泌が低下
します。
すると、
胃酸の逆流が減る
→食道腺がんのリスクが下がる可能性がある
と考えられてきました。
そのため、
「除菌すると胃酸の逆流が元に戻って、逆に食道腺がんのリスクが上がるのでは?」
という懸念があったのです。
結論:除菌しても、食道がんは増えない
北欧5カ国で行われた約66万人の大規模研究では、
ピロリ菌を除菌しても
・食道腺がんの発生は増えず、長期的にはむしろ減少傾向
・食道扁平上皮がんについても、発症率は一般集団とほぼ同じ
論文: Wiklund AK, et al. Gastroenterology. 2024
という結果でした。
注意しておきたい重要ポイント
一方で、
- 胃酸の逆流(胃食道逆流症)がある方
- 胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬)を使用している方
では、食道腺がんのリスクは高い傾向がありました。
これは以前から知られているリスク因子であり、
「ピロリ菌の除菌そのものが原因」というわけではない
と考えられます。
なぜリスクが上がらなかったのか?
理由としては、
- 除菌後も胃酸分泌が完全には回復しない可能性
- 生活習慣の改善(禁煙・食事など)
などが影響している可能性が指摘されています。
日本人への当てはめについて
今回の研究は北欧のデータであり、
日本人とは背景(体質・食習慣など)が異なります
そのため、
この結果をそのまま日本人に当てはめる際には注意が必要
です。
ただし、
少なくとも「除菌で食道がんが増える」という強い懸念は
現時点では支持されていない
と考えてよいでしょう。
まとめ
今回紹介した研究の結果で言えることは
- ピロリ菌除菌で食道腺がんは増えない
- 長期的にはむしろ低下傾向
- リスクに影響するのは胃酸の逆流など他の要因
ということです。
ピロリ菌は胃がんの主要因となるため、
「除菌せず放置するリスク」が大きい感染症です。
不安な情報に振り回されすぎず、正しい知識で判断することが大切です。
※この記事は、病気や検査について一般的な情報を分かりやすくお伝えする目的で書いています。症状や検査の必要性は、年齢や体質、既往歴などによって異なりますので、気になる症状がある場合は、早めに医療機関へご相談ください。
この記事を書いた人
永田充(消化器内視鏡専門医/湘南藤沢徳洲会病院 内視鏡内科 部長)
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▶内視鏡治療や研究内容(Underwater ESDなど)については、専門家向けにnoteでも発信しています。
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