「虹男」
 
彼女はそんな女でした。
 
あなたのそばにいられればどこでも。
 
なんて血反吐はいても言わないし。
かといって、ここがいいあそこがいいと敢えて口にする素直さもない。
 
どこでもいい。静かなところ。人がいなくて。一日いても飽きないところ。
 
それが二人の了解で。そうは言ってもなかなかそのどこでもいいが見つからず、ちょっと週末しかも半日ではなおさら困難とわかっているから。いつも僕がこう言うんです。あいさつ程度の身軽さを決して忘れずに。半分言わされてるんじゃないか。俺が黙っていたらどうなるかなあ。なあんてことは極力忘れて。いつも僕からこう言うんです。
 
きょ、今日はどこいこうか。
 
応えは うん。でも そうね。でも同じことで。会話んなってねえよ。とか 返事すんなよ返事。とか言って突っ込んでもいけません流れるだけですから。二人の間を音に帰されてしまったものが
 
カワナテネヨ、サラサラ~。ヘジスナヨヘジ、スルスル~。
 
でもその日は違ったんです。正直驚きました。彼女は言ったんです。まるで朝から道々用意したきたかのように。彼女は決してその手の用意などする筈のない女だと思っていましたから余計におどろきました。彼女は言いました。
 
「この世の外ならどこへでも。」
 
僕は何も言えませんでした。しばらく黙ってしまいました。そうです。絶句に逃れ、独りの世界に入り込んでしまい、思わず大好きなモノローグを始めてしまっていたんです。
 
こ、このよのほか?あ、ああそうか、、、。せめて サムウェア オーバー ザ レインボー とでも言ってくれれば良かったのになぁ。言わねぇか、そんなん俺でも。はずかしいもんなぁ。たしかに。
 
でも意味するところはそう遠くないんじゃあないかと勝手に思いたかったのとそんな気がしてきたのでモノローグはまだ続きました。
 
例えばここからぱったり二人別れて彼女がそこへ向かって、僕が黙ってこのまま虹の向こうへむかったらいつかどこかで再会するんじゃないか。
 
僕はそんな気がしたのです。それでは別れる必然も何もなくあまりに唐突ですが、僕はようやくこの永遠の沈黙から抜け出せるという思いもあってか、気づくと彼女にこう言っていました。
 
それじゃあ ここで別れよう。
 
彼女は黙ってうなずいて、そうして少し微笑みました。
わぉ。僕は正直また驚いてしまいました。しかし、今度は半永遠くらいでもちなおして
 
どっちにいく?
 
と少し含みをもたせて聞くと、彼女はやはり
 
私は、こっち。
 
と言って一方を指差しました。僕は
 
うんそうか。
 
と言って彼女を背にし。背中越しに
 
さよなら。
 
と言うと。表情にしたらきっとさっきの微笑のその声で彼女も応えて言いました。
 
さようなら。
 
そうして僕は振り返らずに真っ直ぐここまで来た。と、こういう訳なんです。彼女もきっと振り返らなかったろうし、彼女の真っ直ぐで今ごろどこかまでは行ったでしょう。僕の真っ直ぐも、彼女のそれももちろん曲線で、岐路も交差もあるでしょうが。だからこそ、そうして再会を夢みることができるのです。僕は今、虹がどこかを探して僕の真っ直ぐをうろうろしていますが、彼女は手始めにこの世の果てでもあたっているかもしれません。あるいは別のどこか、何かでしょうか。ああ、ちょっと今ここで初めて振り返ってみちゃいますね。あー、やっぱり彼女の姿ありませんねー。
そりゃあそうです。もう別れて一月は経ちますから。おっと失礼。それではマイペースではありますが、先を急ぎますので、この辺でお暇しますよ。なにせ、虹を探さなきゃなりませんから、虹を。渡らなきゃなりませんから、虹をね。
虹を。
 
 
♪ サムウェ~ オ~バザ レインボォ~ フ~ン フ~ンフ~ン