日本の精神医療がいまだ隔離収容・多剤大量処方という前近代的体制から抜け出していないことは周知の事実です。

この問題すら解決していないところに、欧米諸国の病気喧伝と早期介入が流入してきたことから、いよいよ日本の精神医療が混沌の時代へと突入したというのが最近の流れです。

この病気喧伝や早期介入の流れにはもはや抗えないのでしょうか?

圧倒的な奔流の中にも、少しだけ逆流も生じ始めています。その中でも面白いのは、精神科医の中から疑問の声が上がってきたということです。そして、「あの」朝日新聞までもが初めて病気喧伝の問題を取り上げたということです。
そこでは、井原氏や田島氏、そしてあのデビッド・ヒーリーが取り上げられています。

とはいえ、ヒーリーの主張「製薬会社は『薬を売るより病気を売れ』というやり方で、患者の掘り起こしをしてきた。精神科の薬の開発は、科学の衣をまとったマーケティングである」が紹介されていたのは少し驚きでした。もちろん、やはり大手メディアの限界なのか、全体としてはそれなりに無難な仕上がりになっています。

さて、大手メディアでは伝えることのできない、病気喧伝や早期介入の問題については、専門誌で見られるようになってきています。面白いのはこれです。
http://www.nippyo.co.jp/book/5685.html
http://www.amazon.co.jp/dp/4535904251

玉石混交の感は否めないのですが、読むべきは「早期介入プランへの控えめな懸念(斎藤 環)」と「くすりを飲んで大丈夫?(井原 裕)」です。

いわゆる「異端」(※もちろん、良い意味ですよ)ではない日本の精神科医が、早期介入を真っ向から否定したのはこれが初めてかもしれませんね。マクゴーリや東北大学の松本和紀氏らを名指しで批判しています。その文中で松本氏の表記が「松永和紀」「松本和紀」「松下和紀」とバラバラだったのは何かの当て付けだったんでしょうかね?(※単なるミスかとは思いますが、日本評論社さん、早期介入を推進する宮田雄吾氏の「14歳からの精神医学」を重版する余裕があればこちらも修正しておいて下さいね)

井原氏のパートも、このブログをご覧になっている方にとっては特に真新しい視点ではないかもしれません。しかし、それを現役の精神科医が論文・書籍という形で発表することに意味があります。同じ内容でも、私がこんなブログで主張するよりもよほど価値や説得力があります。

病気喧伝がさらにエスカレートし、早期介入が本格的に導入されたら、一番の被害は子どもに集中するでしょう。恐ろしいのは、最初に述べたとおり、隔離収容・多剤大量処方型から抜け出していないという事実です。

今日はある母親に会ってきました。17歳の息子さんが突然死したということでした。投薬内容を確認すると、抗精神病薬4種類、CP換算で2300mg。心電図の異常、ふらつき、転倒、譫妄、全身の震え、流涎など明らかに徴候が現れているにもかかわらず、何らの対処もせず、むしろ症状が悪化したとして薬を増量・維持するという、治療行為ではなく、野蛮行為、いえ殺人行為が行われていました。薬の扱いと、その対処のやり方を見たら、この少年が心停止を起こして亡くなったのは、当然の帰結ともいえるでしょう。

これが、街角クリニックというならばまだ理解できます。しかし、これはなんと児童精神科専門の旧都立某病院で起きた話なのです。専門的な知識のない他科出身の開業医が多剤大量をするのだ、と主張している精神科医がいますが、その精神科医に是非この処方を見せてあげたいですね。

国内最高峰の児童精神科の実態がこれなのに、早期介入などされたらたまったものではありません。



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