明け方の駅へと、シオンを荷台に乗せて、自転車を漕いだ。
錆びた車輪が悲鳴を上げながら、線路沿いの上り坂を走る。
後ろからシオンの、もう少し、頑張ってという、楽しそうな声が聞こえた。
坂道を登りきった時、ちょうど朝日が顔を出した。
まだ半分夢見心地な街を照らす朝日は綺麗過ぎて、僕は暫く呆然としていた。
そんな僕の後ろで、シオンは小さく笑った。
券売機で入場券を買う。
言葉も無いまま、僕らは改札を抜けて、ホームへ降りた。
電車到着のアナウンスが響き、間もなく電車がホームに入ってきた。
ドアが開いて、シオンが一歩を踏み出す。
「約束だよ、いつかまた会おうね。」
僕を振り返り、寂しげに笑ってシオンが言った。
僕は何も言えず、ただ俯いた。
ドアが閉まり、電車が動き出す。
弾かれた様に、僕はホームを飛び出した。
改札を抜け、駅を出て、自転車で線路沿いの下り坂を走った。
錆びた車輪は悲鳴を上げながら、必死で電車に追いつこうとするけど、徐々に離されていった。
ドアの向こうで、シオンは泣いていた。
顔を見なくても、震えた声と肩で分かった。
きっとシオンも、僕が朝日を見ながら泣いてた事に気付いただろう。
必ずまた会おう、約束だ。
シオンに見えるようにと、離れていく電車に向かって、僕は大きく手を振った。
風を切って、電車は次の駅へと向かっていった。
シオンが行く街へ、僕が知らない街へ。
街は徐々に動き出す。
だけど、何だか世界に一人だけみたいだった。
錆びた車輪が悲鳴を上げて、残された僕を、僕の帰る場所へと運んでいく。
背中には、微かに温もりが残っていた。
***
がたがたと車窓が鳴いた。
夜行列車で地元を飛び出し、電車を乗り継いで、ひたすら東京を目指した。
窓の外を見れば、東の空が僅かに明るくなっていた。
もう夜明けなのか。
そんな事を思いながら、夜行列車で出会った女の子の事を思い出した。
夜の闇を見ながらぼんやりしていた僕の足下に、リボンを着けた熊のぬいぐるみが転がってきた。
一瞬迷った後に、とりあえず拾ってみた。
それとほぼ同時に、まだ十歳に届かない様な女の子が駆け寄ってきた。
僕を見て、女の子が怖気付くのが分かった。
拾った事を後悔している内に、女の子は僕から熊を奪って逃げていった。
小さく溜息を吐くと、寝ようと思って椅子を倒した。
後ろから舌打ちが聞こえてきた。
手に汗が滲んだけど、気付かない振りをした。
眠れそうもなかったけど、とりあえず目を閉じた。
いつもこうだ。
役にも立たない。
それどころか邪魔ばかりだ。
僕には、居場所なんて無かった。
どうにも眠れず、目を開ける。
不意に、目の前に、赤い包装紙に包まれた飴が差し出された。
驚いた僕に、さっきの熊の女の子が笑いかけた。
素直に飴を受け取れば、女の子は笑いながら去っていった。
不意に涙が頬を伝った。
ふと我に帰った。
窓の外は朝日が顔を出して、まだ夢見心地の街を照らし始めていた。
駅に停まっていた電車は動き出し、次の駅へと向かった。
ぼんやりと窓の外を見ていた僕は、あるものに視線が釘付けになった。
線路沿いの坂道を、自転車を漕ぎながら手を振る人が居た。
坂道を風よりも早く駆け下りて、必死で電車に追いつこうとする。
見送りたい相手が居るだろうけど、ちょっと恥ずかし過ぎるから、止むてあげた方が良いと思った。
徐々に電車は自転車を引き離し、自転車は後方へと取り残されていった。
本当は、あの自転車も、見送られる人も、羨ましかった。
僕は独りで、止まったままだった。
気付けば、見送る人も誰一人居なかった街から、だいぶ遠い所まで来た。
電車は少しずつ、僕が向かう街を近付ける。
出迎える人も居ない街を近付ける。
ポケットに手を入れると、女の子から貰った飴に触れた。
人は歳を取る度、終わりに近付いていく。
始まりから遠ざかっていく。
きっと僕も、止まっている様で、進んでいるんだろう。
早朝の線路の上を、電車は次の駅へと走っていった。
***
title from
車輪の唄/BUMP OF CHICKEN
銀河鉄道/BUMP OF CHICKEN
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二曲でひとつの話を書くのは初でした。
この二曲で話は書きたいなと思っていまして。
銀河鉄道は、車輪の唄を客観視してる歌詞があるんですよね。
藤くん本人が、当時言っていましたね。
今回の語り、分かる方もいるかと思いますが、前半はカナデくんです。
シオンとの話は、もともと車輪の唄で考えていまして。
最終的には、お互い、好きなまま離れ離れになるって設定なんですね。
その辺は、また追々書いていこうと思います。
そして、後半の語りですが、ワンルーム叙事詩の主人公です。
実は、まだ主人公の名前は決まってないんです。
カナデくんみたいに、漢字一文字て三文字読みの名前にしようかなぁと思ってたり。
候補はあるんですけどね。
前向きな名前にしたいなぁと思ってます。
こういう、前日譚じゃないけど、そういった話も書いていこうかな。
カナデくんに会いたいなって思う、今日この頃です。