三歩先を、シオンが歩く。

少し跳ねるように歩く後ろ姿を、僕はぼんやりと眺めた。

とん、と着地するようにシオンは立ち止まると、僕を振り返った。

茶髪がかった短めの髪が揺れる。

「カナくん。」

笑いながら僕を呼んだ。

そんなシオンに僕も笑い返すと、追いついて隣に並ぶ。

そのまま二人して歩き出す。

ほとんど無意識に、僕は自分の左手をシオンの右手と繋いだ。

「寒いね。」

そう言って、シオンはマフラーに顔を埋めた。

「カナくんの手、冷たいね。」

「冬だからね。」

笑うシオンに、笑いながら僕は返した。

シオンと居ると、不思議と笑う回数が増えた。


***


二年になって一ヶ月程した五月上旬。

大型連休も終わり、いつもの平坦な日常が戻りつつあったある日。

僕は午後の授業を抜け出して、屋上へと向かった。

フジとカイトは授業を受けると言っていたので、僕一人だけだった。

フェンスに凭れかかって、少しずつ夏の気配を含み始めた空を眺めていると、不意に扉が開いた。

扉の向こう側には、一人の女子生徒。

彼女は僕を見つけると、驚いた顔をした。

そのまま少し躊躇った後、屋上から去ろうとした。

「君もサボり?  気にせず来て良いよ。」

極力警戒されないように、笑いながら呼びかける。

女子生徒は暫く迷った様子を見せたけど、意を決したのか、僕の方へと向かってきた。

「隣、良いよ。」

そう促せば、躊躇しながらも、僕の隣へと腰を下ろした。

何となしに、僕は彼女へと視線を向けた。

彼女と目が合った。

「あ、あの。」

勢い込んで、彼女が声を出す。

「去年の文化祭で、バンドやってた人ですよね?」

思いがけない言葉に、僕は一瞬言葉を失った。

「う、うん。」

何とか返事を返せば、不意に彼女が笑顔になった。

「あの、ずっと話してみたかったんです。」

僅かに頬を赤らめて、彼女は続ける。

「あんなに素敵な歌を歌える人って、どんな人なんだろうって。」

予想外の展開に、僕の頭は暫く現状についていけなかった。

「友達になってくれませんか?」

彼女のその一言に、徐々に状況が飲み込めてきた。

「僕で良ければ。」

気付けば、僕は笑いながら、そう返していた。

「あと、敬語は必要ないかな。同じ二年だし。」

彼女の校章を確認しながら、僕は続けた。

「はい。あ、うん。」

彼女の返事に、二人して笑った。

「星川紫苑っていうんだ。植物の紫苑と同じ字。」

笑いながら、彼女は名乗った。

綺麗な名前だなと、素直に思った。

「藤原っていうんだ、僕は。」

僕も名乗り返す。

敢えて、名字しか言わなかった。

「藤原くんの下の名前って、何て読むの?」

暫く経ったある日、僕のノートに書かれた名前を見て、シオンが尋ねてきた。

「ソウくん?」

冗談なのか、本気なのか、シオンが笑いながら言ってきた。

「カナデ、だよ。」

一瞬躊躇った後、僕は答えた。

あまり呼ばれない名前。

聞きたくもない、大嫌いな名前。

「良い名前だね。」

シオンが笑う。

「カナデくんって呼びたい。あたしの事も、シオンで良いよ。」

笑うシオンに、僕は何も言えなかった。

それからシオンは、僕の事を名前で呼び始めた。

その度に、身を刺される様な感覚を何度も味わった。

「名前で呼ぶの、やめて欲しいんだ。」

どうにも耐えられなくなった僕は、ある時シオンに零した。

シオンは驚いた顔こそしたものの、理由を聞いてくる事はしなかった。

「分かった。」

あまりにもあっさりとした返事に、今度は僕が驚いた。

「でも、名字だと何だか他人行儀だから、カナくんって呼んでいいかな?」

笑いながら問いかけるシオンに、僕は小さく頷いた。

シオンといつからこんな関係になったのかは、正直覚えていない。

気付けば、一緒に居る時間がだんだんと増えていた。

フジやカイトなんかからは、よく夫婦だのとからかわれたけど、いまいちぴんとこなかった。

シオンに対してのこの感情が何なのか、未だによく分からない。

ただ、一緒に居て居心地が良いと思った。


***


「カナくん。」

シオンの声に、ふと我に帰った。

「考え事?」

「シオンと出会った事を思い出してた。」

僕の言葉に、シオンは顔を赤くした。

「やだ、恥ずかしい。」

照れた様に笑うシオンの右手を繋ぎ直した。

僕らは再び歩き出す。

僕らの関係を一言で言い表す言葉なんて、きっと無いんだろう。

それで別に良かった。

僕らを縛るものなんて、何も無い。

ただこうやって、シオンの隣に居れる事が、幸せだと思えた。

僕より小さいシオンの手を握る左手に、少しだけ力を込めた。


***


初めて恋愛話を書いてみた。

あー、恥ずかしい。笑

カナデくんの恋愛話は、書いてはみたかったんです。

カナデくん、一応高校時代には彼女居る設定なんです。笑

ちゃんと、しっかりした話で書きたいけど、如何せん、僕に恋愛経験がないものでして。笑

構成もまだちゃんと決まってないので、まぁのんびり書いていこうかと。笑

そういえば、カナデくんのフルネームを出すのは、初ですね。

ちなみに、彼女の名前は、花の名前にしたいなって思っていまして。

シオンって、響きが良いなと思ったので。

カナデくんには、シオンの事を大切にしてもらおう。