「みらいいろ - 奏 -」


静かな部屋の中に、雨音が響いた。

カーテンの隙間から外を見れば、雨に濡れた夜の街が広がっていた。

ぼんやりと煙る街明かりを、何だか童話の世界みたいだなと思いながら眺めた。

窓から離れると、テーブルの上に置かれた白い錠剤を手に取り、用量を確認せずに口に放り込む。

明らかに用量以上の睡眠薬を飲んでいるのに、先程から全く眠くならない。

錠剤を口に含んだまま、再びテーブルに手を伸ばし、今度は缶ビールを手に取った。

栓を切ると、一気に喉の奥に流し込む。

空になった缶を、足元に放り投げた。

そこには、缶ビールや焼酎やチューハイなんかの缶が、数本転がっていた。

僕にしては珍しく、結構な深酒だった。

それなのに全く酔えず、むしろ意識が冴える一方だった。

いや、本当は酔っ払ってるのかもしれない。

時々訪れる、この感覚。

今は昔程不安定じゃない。

不安はあるけど、毎日それなりに充実してる。

何なんだろう。

そうして自問自答に行き当たる。

そんな思考をかき消そうと、こうやって睡眠薬を大量に飲んだり、深酒をしたりする。

だけど、どうにも眠れない。

ふと、カーテンの隙間の窓に映った自分と目が合った。

長めの前髪の下から、少し疲れた顔が覗く。

「眠れないの?」

不意に問いかけてくる"声"。

「また今夜も眠れないね。」

そう"声"が"歌う"。

「君は頑張り屋だからね。」

"声"が"響く"。

「だから、心を置き去りにしてる事にも気付いてないんだ。」

"声"が"奏でる"。

「それは寂しい事なのに。」

"声"が"笑う"。

「君は寂しい事をしてるのに気付いてないんだ。」

窓に映る"君"が"笑った"。

「随分、僕の事を知ったふうだね。」

僅かに苛立った僕は"君"に言い返した。

声にも苛立ちが混ざった。

"君"は"笑い続ける"。

「捨てられなければ、背負っていけば良いのに。重荷になるなら、捨てちゃえば良いのに。」

"君"が"歌う"。

「どっちも選べないくせしてさ、どっちも選ぼうとするなんてね。」

"君"が"響く"。

「うるさいよ。」

苛立って声を荒らげた。

「そんなの分かってるよ。」

無性に悔しくて仕方なかった。

「だから、こんなに苦しいんじゃないかよ。」

部屋に雨音が響く。

「今夜もまた雨だった。」

"君"が"奏でる"。

「雨の日は、大好きで大嫌いなんだ。」

"君"が"笑う"。

「君とこうして会えるからね。」

"声"が"笑った"。

「僕を置いて行かないでよ。」

窓の中で、"君"が寂しそうに"笑った"。

「一緒の方が楽しいよ。」

"君"は"笑い続ける"。

「俺はここで、歌い続けるよ。」

部屋に声が響いた。

それが僕自身の声だと気付くまでに、少し時間がかかった。

"君"が驚いた顔を見せた。

街灯がぼんやりと煙る。

空に街明かりが反射する。

車の往来の音が聞こえる。

遠くで電車が通る音が聞こえる。

雨音は響き続ける。

「僕を忘れないようにね。」

"君"が優しく"笑った"。

「ここは僕の場所でもあるんだよ。」

"声"が"笑い続ける"。

「知ってるよ。」

あぁ、また夢の続きだ。

「またね、"カナデ"。」

大嫌いな僕の名前を読んだ。


***


射し込む日差しで目が覚めた。

テーブルの上には錠剤の容器が、床には数本の缶が散乱したままだ。

飲み過ぎたせいか、頭が痛い。

カーテンの隙間から、外を眺めた。

雨上がりの朝は空気が透き通っていて、遠くの家並みまで見えた。

まだしんとした街を、ぼんやりと眺め続けた。

透けるような青空はどこまでも続き、このまま飛べそうだった。

あぁ、まだ夢を見てるな。

ベッドから抜け出すと、今日の準備を始めた。

「僕を忘れないようにね。」

不意に、"君"の"声"が聞こえた気がした。


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一度は、こういった話を書いてみたかった。