「エとセとラ」

(みらいいろ・回想録)


(一)

「リュウ、もっと速く。」

後ろでカナデの楽しそうな声が聞こえてくる。

駅に向かう僕は、荷台にカナデを乗せながら、自転車を漕いでいた。

カナデは、男にしては細身で軽い。

病弱なせいもあるんだろうけど。

対する僕は、割と体力には自信があった。

だから、二人乗りでもそんなに大変ではなかった。

だけど、今は上り坂の真ん中。

いくら僕でも、男二人分の重さを乗せた自転車を漕ぐのは、やっぱりきつかった。

「もう、下りてよ。」

「体力作りになるよ。」

頬を膨らませる僕に、カナデは笑いながらそう言った。

カナデの笑顔を見てると、何だか気が抜けてしまう。

溜息を吐くと、僕はペダルを漕ぐ足に力を込めた。

「疲れた。」

駅前に来ると、僕は隅っこに座って休んだ。

「お疲れ。」

カナデが、近くの自販機で買ってきたペットボトルを差し出した。

お礼を言って、僕は受け取った。

「ここってさ、いつも路上ライブやってる場所だよね。」

僕はカナデに言った。

「あ、そうだね。」

思い出したように、カナデは呟いた。

「こんな眺めなんだね。」

僕は道行く人の波を眺めた。

夜になり、灯り出す街頭に合わせて、カナデが歌い出す。

流れていた人波は、徐々に足を止めていく。

駅前で、雑踏に混ざって響く、カナデの歌声。

僕はその風景を思い浮かべた。

「何だか、良い眺めだね。」

そう呟く僕に、カナデは笑い返してきた。