「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(一)

年の瀬が迫り、どことなく忙しない空気が漂っていた。

この田舎町も例外ではなく、行き交う人々の足取りは、何となく早足だった。

そんな人混みの中を、半ば流されるようにして、俺は家路を急いだ。

中学三年のこの時期は、受験間近な事もあって、学年全体に張り詰めたような空気が満ちていた。

そんな学校の空気も、この町の急かすような空気も、俺は嫌で仕方なかった。

クラスに友達が居ない訳ではない。

だけど、本音で話せる奴は居なかった。

本来、そんなに人見知りをする質ではなかった俺は、誰彼となく話す事は出来た。

だけど、それで本当に信頼出来る奴が出来るかどうかは別の話だ。

人見知りはしなかったけど、そもそも俺は、周りを信用していない。

信じて裏切られる事程、馬鹿らしい事は無かった。

最初から信じなければ、裏切られる事もない。

ふと、ショーウィンドウに映る自分の姿が目に入った。

淡い茶髪に、少し疲れたような顔。

思わず苦笑いが漏れた。

そのまま、再び歩き出して、駅の前を通り過ぎようとした。

不意に足が止まる。

駅前の、ある場所に目が行った。

忙しなく行き交う人波の片隅。

そこに、アコースティックギターを弾きながら歌う男が一人居た。

そいつの所だけ、周りの時間から切り離されたような感じだった。

俺はそいつから目が離せなかった。

それから度々、俺はそいつを駅前で見かけた。

周りの連中は、そいつの事なんて目に入らないかのように、急ぎ足で通り過ぎていく。

そんな事にはお構い無しに、そいつは歌い続ける。

ある日、いつものように駅前を通ると、相変わらずそいつは居て、今日も歌い続けていた。

少し離れた所から、俺はそいつの歌を聴いていた。

少し高めの声が響く。

歌い終わると、そいつは早々と帰り支度を始めた。

気付けば、俺はそいつに近付き、拍手を送っていた。

そいつは、驚いた顔で俺を見た。

初めてそいつの顔を見た。

ハットの下から、薄い特徴的な顔が覗く。

「びっくりした。まさか聴いてくれてた人が居たとは思わなかったよ。」

そう言って、そいつは笑った。

「良かったぜ、あんたの歌。」

俺はそう言って、つられて笑った。

「俺、カイトって言うんだ。」

気付けば、俺は名乗っていた。

「俺はヨウ。」

これが、俺とヨウの出会いだった。