「夏が近いな」なんて言った。吹き抜ける風に、ふと夏の気配を感じた。梅雨の合間から覗く青空は、どことなく高くなり、季節の移ろいを感じさせた。この時期になると、不意に海が見たくなる。見慣れた道を走る途中、車がエンストを起こし、立ち往生をした。路肩に立ち尽くす私を、行き交う車の中からの視線が刺す。その、怪訝とも不審とも取れぬ視線の数々に、蓋をした本心を見抜かれたような気がして、意味もなく焦燥感に襲われた。割れた爪が、不意に痛み出す。痛みだけには素直だと、思わず苦笑を漏らした。運転席に乗り込み、カーナビをつける。印を付けた目的地は行き先不明のままだ。憧れの場所には、どうあっても辿り着けないという事実は、あえて考えないようにした。フロントガラス越しに空を見上げる。そこには、数年前に姿をくらました、あの日の夏の空が広がっていた。