(二)


駅から徒歩十分の安アパート。

そのアパートの前の自販機で、僕は缶コーヒーを買う。

夏の間に肩まで伸びた長い黒髪は、顎に揃えて切り揃えられている。

時刻は午後五時過ぎ。

少し短くなった昼間の名残の中、アコースティックギターが入ったケースを片手に、駅前へ向かう。

「あ、来た来た。」

駅前に着き、いつもの定位置に向かうと、既に先客が一人居た。

「フジ。」

「来ると思ったよ。」

フジはそう言うと立ち上がり、僕に場所を譲る。

「久々に、お前のワンマンステージ見たくなってさ。」

そう言って、フジは笑う。

僕は準備に取りかかった。

しばらく、僕らの間に沈黙が流れる。

「リュウじゃねぇけどさ。」

沈黙を破って、フジが口を開いた。

「夢の島って、本当にあるんかな?」

僕は手を止めてフジを見た。

遠くを見てるような、近くを見てるような、一点を凝視してるような、定まってないような、そんな視線で、フジはどこかを見ていた。

いや、どこも見てないのかもしれない。

フジのその表情からは、フジの考えてる事は読み取れなかった。

「お前はどう思う?」

フジが問いかけてくる。

突然の事に、僕は言葉に詰まった。

困っていると、フジが口を開いた。

「悪い、変な事聞いた。」

苦笑い混じりに、フジが謝った。

「夢の島って聞いてさ、俺はそんな綺麗なもんは浮かばなくてさ。」

呟くように、フジは喋り出す。

「正直、ゴミ溜めみたいなのを想像したんだよね。夢って、言い換えれば理想みたいなもんだろ? 何て言うかさ、叶わなかったものを捨てる場所みたいに思ってさ。」

フジの言葉を、思わず僕は聞き入っていた。

フジらしいな。

フジにだって、夢や理想はある。

だけど、どこか現実をしっかり見ているところもある。

それが何だか、僕には羨ましかった。

「それも、夢の島だと思うよ。」

ぽつりとこぼした僕の言葉に、フジが僕を見る。

「夢の島ってさ、その人がそう思えた場所が、たぶん夢の島なんだよ。」

夕日に染まったフジの家のベランダから見た虹とか、みんなで天体観測をした踏切や、上京前に星を見上げた土手とか。

みんなと一緒に見た景色が、僕にとっては夢の島なんだ。

「例えば僕なんかだと、ライブとかかな。」

そう言えば、フジは笑った。

「お前らしいな。」

そう言うと、フジは空を見上げた。

「お前の名前が、俺にとってはそうかな。」

「え?」

フジが呟いたその一言に、僕は驚いてフジを見た。

暗がりの中、空を見上げたフジの横顔は、笑ってるように見えた。

フジの視線を追って、僕も空を見上げる。

群青色に染まる空、ちらちらと顔を出し始めた星。

駅前の街灯が街を照らし出し、僕はギター構えた。

まだ微かに夏の気配が残るこの夢の島で、僕は歌い出した。



悪魔が来たよ 唄いながら
「望んでた世界はどう?」って
問いかけてくる
救いの手も もう
どうやら つかめそうにない

僕の特技は独りぼっち
「居場所なんかなかった。」って 答えてみた
とても綺麗な日
希望も灰になりそうな
夢から覚めるための呪文が
思いだせないのは何故だろう?

目にうかんだ愁しみを捨てに
何処に行こう?
キラキラした夢の島 何処にあるの?
燃えて消えないゴミ達と
朽ちていきたいよ
キラキラした夢の島 一緒に行こう


夢の島/Plastic Tree


***


番外編に載せようと思ってたけど、こっちに。

プラさんの夢の島が頭を巡っていて、思いついたお話。