「ワンルーム叙事詩」

‥最初に‥


***

(八)

「俺はここで、歌い続けるよ。」

カナデから届いた一通のメール。

その文を読んだ時、僕は思わず吹き出した。

「俺」なんて、普段は使わないくせに。

まぁ、あいつらしい一言だな。

僕は携帯を閉じると、ポケットに仕舞った。

これからの事は、まだ決めていない。

田舎の実家に戻っても良いかもな。

とりあえず、仕事を探さないと。

しばらくは、のんびり過ごしても良いか。

もう一度、歌を始めてみようかな。

相変わらず、未来に期待なんてしていない。

終わりがいつ来たっていいと思ってる。

それならさ、まだ少し先を見てみようとも思うんだ。

そうだ、カナデのバンドのライブを、もう一度見よう。

相変わらずさ、人の目は怖いよ。

この世界とも、上手く折り合いをつけられない。

変わらずに、僕は怯えながら、ここで生きていく。

日が暮れた駅前を歩く。

真夏の夜は、暗くなっても暑い。

ふと、僕は足を止めた。

少し先に人集りが出来ていた。

そこから聴こえる歌声。

僕はすぐに分かった。

少し離れたところから、歌うそいつを見る。

目を閉じて、アコースティックギターを鳴らす。

細い喉から線の細い、だけどしっかりとした歌声が溢れる。

左腕には、肘までの黒いアームウォーマー。

歌い終わり、お辞儀をするそいつを背に、僕は再び歩き出した。