「ワンルーム叙事詩」

‥最初に‥


***

(七)

夜道を、僕はアパートに向かって歩いた。

僕の向かう場所は、あのアパートではないけど。

部屋に入ると、僕は窓辺に腰掛けて、煙草を吹かした。

カナデの事が頭から離れなかった。

自傷行為があった事は知っていたけど、抱えてるものが何なのか、それは知らなかった。

カナデは前向きな奴じゃなかったけど、普通に話せるし、普通に笑える奴だった。

カナデの笑顔は自然体で、見ていて羨ましかった。

カナデは、今でも傷を抱えているのかな?

悩んで、迷って、裏切られて、間違って、傷付いて。

それでも歩いていこうするあいつは、やっぱり羨ましい。

ふと、携帯に一件の受信メールが入ってる事に気付いた。

相手はレイだった。

「いきなり悪かったな。お前の事が心配でさ。」

その一文に、僕は思わず笑ってしまった。

ふと、次の文が目に留まった。

「カナデの事な。あいつさ、ああやって笑えるようになるまで、相当時間かかったみたいなんだよ。だからさ、お前の事、放っておけなかったんだよ。」

ふと、また期待をしている自分に気が付いた。

目の奥が熱くなる。

諦めたはずなのに、もう終わりにしたいのに。

明日に対する希望とか、そういったものを持ったって、どうせ裏切られるだけなのに。

なのに、カナデを見ていたら、また信じても良いなんて思ってしまった。

あいつも、こんな気持ちになった事があるのだろうか。

少しだけ、カナデに会った事を後悔した。