「ワンルーム叙事詩」

‥最初に‥


***

(四)

思えば、あの頃が一番楽しかった。

あの頃は、若者らしい明るさが、僕にもあった。

仲間と毎日楽しく過ごしていた。

友達だって居た。

大切なものだってあった。

今は、その全てが無いに等しい。

きっかけは、恐らくバンドを辞めた事。

あの瞬間、僕は全てを失った。

それと同時に、他のメンバーも居場所を失った事も知ってる。

だけどさ、仕様がないよ。

僕に才能なんて無いって、嫌って程思い知らされたんだから。

あれ以来、カナデにも会っていない。

僕は足下に置かれた鞄に目を落とした。

その中にある、刃渡り15㎝の包丁。

僕の鞄の中には、常にそいつが入っている。

今の僕の状況は、まぁ酷い方かな。

でもまぁ、そうなったのは僕自身が原因だから仕方がない。

何でこうなったのか、どうして上手くできないのか。

そんな自問自答を、僕は何度繰り返しただろう。

夢を見て上京して、やれるだけの事は、精一杯やったつもりだった。

いつからだろう、普通がこんなに辛くなったのは。

みんなが難なくこなす普通の生活が、僕には酷く苦しい。

幾度と無く、普通の生活をしようと頑張った。

普通に働いて、普通に暮らして。

それが僕には出来ない。

人と話す事が、酷く怖いんだ。

どこを見て良いか分からないんだよ。

上手く話せないし、上手く笑えない。

だから、みんなは僕を嘲り、馬鹿にする。

何で、僕ばっかり。

イライラする。

そんな行き場の無い気持ちは、どこにも向けようがなかった。

結局は、僕自身が問題なんだ。

こんなに生きづらいなら、いっその事、消えてしまった方が楽なのかな。

そうすれば、何も感じなくて済む。

全て終わる。

ふと、携帯に一件の着信が入ってる事に気付いた。

相手はレイだった。

レイは何度か連絡をくれたけど、出る事は一度もなかった。

何となく、レイに会おうという気になった。

正直、僕はもう未来を諦めていた。

もう終わりが来たって良いんだ。

その前に、友人に会っておこう。

そんな気になったんだ。