「ワンルーム叙事詩」

‥最初に‥


***

(二)

安アパートの窓辺に座り、煙草を吹かしながら、僕はカナデの事を思い返していた。

カナデとは一年くらい前に、あるイベントライブで知り合った。

その日出演していた何組かのバンドの中の、あるバンドのボーカルだった。

僕はその時、客席からそのバンドを見ていた。

中央に立ったカナデは、細い体のせいか、どこか繊細な印象を受けた。

だけど、頼りない感じは全然なく、むしろ、堂々と構えてるようにさえ見えた。

ギターをかき鳴らしながら歌うカナデを、僕はじっと見ていた。

線の細い、だけどしっかりとした歌声が、その喉から溢れた。

心地良い歌声だった。

僕は、カナデから目が離せなくなった。

「お前さ、あのボーカルの事気になってるって言ってただろ?会えるかもしれねぇぞ。」

ある日、同じバンドメンバーのレイがそう言ってきた。

どうやらレイは、そのバンドのリーダーと知り合いみたいだった。

驚きながらも、僕は喜んだ。

数日後のスタジオで、僕らは顔を合わせた。

「リュウ、僕がお邪魔しても良いの?」

「ここまで来て何言ってるの。入るよ。」

ドアの向こうで話し声が聞こえる。

レイがドアを開ける。

二人の男が入ってきた。

先に入ってきたのは、ベースを肩に背負った、長い黒髪に色白の男。

一瞬、女と見間違えるような綺麗な顔立ち。

そいつに先導されて入ってきた男。

揺れる黒髪のおかっぱ、色白の肌に細い体。

そして、左腕に着けている、肘までの黒いアームウォーマー。

それが、カナデとの初対面だった。