音楽小説を書いてきた経緯で音楽の国ドイツについて系譜を辿るうち、ロマン派が活躍する時代に開拓され興盛期が築かれたドイツの芸術歌曲、ドイツリートについて改めて関心が深まり、こちらのエッセイでも記しておこうと思いました。

 

 ドイツリートはドイツ語の詩を歌詞にして曲がつけられ、詩と音楽が互いに影響し合い、緊密に調和された美しい旋律となって、主にピアノ伴奏で歌われているドイツの歌曲です。日本ではクラシック音楽を専門的に学ぶ声楽家の間でよく知られているイメージもありますが、シューベルトの「野ばら」や「魔王」などの日本語訳が小中学校の音楽の授業で扱われているので、合唱曲として何気なく聞いたり歌ったりしたことがある人もいると思います。

 

 かく言う私は高校時代、音楽の授業の課題でシューベルトの「音楽に寄せて」やメンデルスゾーンの「歌の翼に」をドイツ語で歌ったことがあります。その当時、音楽の授業で歌のテストもありましたので、家でも練習しましたし、テスト当日には生徒一人ずつがピアノ伴奏のもと音楽室の演壇で独唱しました。ピアノ伴奏も手伝ったりして、懐かしい思い出です。当時はドイツ語の意味もよく考えずにそのまま発音して歌っていましたが、今回、改めて、ドイツ語の原詩を自分なりに和訳してみることにしました。

 

 新しいコンテンツとして以下より、『序曲 プレリュード from season to season』でもお馴染みのピアノ曲シューマン作曲、リスト編曲の『献呈』のドイツリートの歌詞から少しずつ取り組んでいます。『献呈』が収載されている連作歌曲集「ミルテの花」26曲は全て和訳する予定でその後、シューベルトの「音楽に寄せて」やメンデルスゾーンの「歌の翼に」も取り組む予定です。

 

「ドイツリート”Deutsches Lied”の詩趣」

 

 尚、ドイツ語については薬科大学の第2外国語で必修科目だったのでその時に学びましたが、文法についてはすっかり忘れてしまっていて少し抵抗がありましたが、ドイツ語のゼミなどでも辞書で単語を調べながらの意訳の仕方を教わりましたし、昨今はインターネット辞書や翻訳のツールが普及しているので、当時よりも辞書を引く方法も調べやすくなったので、思っていたより和訳しやすかったです。

 

 また、ドイツ文学についても古典主義の作家ゲーテや後期ロマン主義のグリム兄弟、芸術美に造詣が深い象徴主義と印象主義として知られる詩人、リルケやハイネ、20世紀前半のドイツ文学を代表する作家ヘルマン・ヘッセやフランツ・カフカなどの詩や小説を読み込んでいた時期があり、その情趣にも馴染み深かったので、ドイツリートについても親しみが持てたように思いました。今、和訳している「ミルテの花」にもゲーテやハイネの詩が扱われていて、文豪の詩を作曲家が見事に生かし、ドイツリートの基礎が強固に築かれていったことが推察されました。和訳を通して、ドイツ詩の詩趣を深めつつ、小説の方も時間を見つけて少しずつ書き進めていけるようになるといいなと思っています。

 

※参考文献

ドイツの詩と音楽 荒井秀直 著

〈音楽の国ドイツ〉の神話とその起源 吉田寛 著

民謡の発見と〈ドイツ〉の変貌 吉田寛 著

絶対音楽の美学と分裂する〈ドイツ〉 吉田寛 著

「とりのうた通信」馬淵元子 著 他