二足の草鞋 -78ページ目

孤独な道標 【第六章】~不信~

【第六章】
≪不信≫

淳介の言葉は、心に沁み、傷を癒すかのように感じられたが今の私にはそれを許す程の気力がなかった。正直、誰とも会話をしたくなくて独りになりたかった。でも、淳介の看病は本当に有難いと思っていた。
ベッドの枕元に寄りかかるように座っていた私の手をベッドの枠に手錠で固定しようとする。
「いや!なんで?」

「俺、これから食糧とか消毒用の脱脂綿、包帯、ガーゼを買ってくる。その間、おまえがどっかへ行っちゃわないように。」

「行かない。行かないから・・・拘束しないで。」

「わかった。じゃあ、1,2時間で帰ってくるから。」と淳介は家を出ていった。

淳介の気持ちは痛いほどよくわかる。私がもし逃げれる気力さえあれば、きっと逃げていたと思う。でも、涙を流して謝られたら・・・一生懸命になって私の看病をしてくれたら・・・逃げられなかった。

独りになった時間、部屋はTVの音が聞こえていたものの、無性に目の前が真っ暗になった寂しさ、孤独を感じた。以前、監禁された時のことを思い出していた。

その時に読んだ本の言葉を思い出していた。

『調教によって洗脳させることができます。洗脳は、無為な作業、肉体的苦痛、強い絶望感などによって、まずものごとを考えさせないようにさせます。これによって反抗心を奪い誰が主人かを理解させることが必要です。』

いま私が置かれている状況がまさに洗脳のような気がした。いや、そもそも私はもう既に、反抗心は無く淳介の人形のようになっているんじゃないか?飴と鞭の使い方が上手な淳介は、こうなることを察知していたかのように思えた。

暫く、無になってボッ―としていたら、淳介が帰ってきた。思ったより早かった。淳介は医療品の他に私の好きなお菓子や生チョコを買ってきてくれた。
「ただいま、みるく。寂しくなかったか?おまえの好きなチョコあるぞ、食うか?」

「要らない・・・。」

「そんなこというな。ひと口食べたらまた寝な。俺、ずっと傍にいるから。」

私は、チョコをひと口食べ、目を閉じていたら、いつのまにか眠りに就いていた。電車の中で揺られながら眠っている中で、周りからはいろんな声が飛び交っていた。今日は楽しかったねとか、仕事の話とか、お母さんと子供の会話とか、賑やかな電車内だった。次の停車駅でたくさんの人が降りて行った後の電車内はガタンゴトンと電車が揺られる音だけしか聞こえなくなっていた。その時、私の名前を呼ぶ淳介の声がする。「もうすぐ降りる駅だよ。」私は、目を擦りながら目を開けた。開けたのに、何も見えない。淳介が「みるく。みるく。」と呼ぶ声がするのに、どこにいるのかもわからない。

「見えないの!淳介、どこ?どこにいるの?」私は、ものすごい恐怖で目が覚めた。

右側にはちゃんと淳介が付き添ってくれていた。私は、夢だと悟った。

「大丈夫か、みるく?なんか、うなされてたから声かけたんだ。」

私には、淳介しかいないのか。これから先の私たちはどうなるんだろう。この傷が治る頃には私の気持ちも整理できているんだろうか。
一週間、付き切りで看病してくれた甲斐もあって、頬の腫れも引き、瞼の抜糸も終わり、傷口は思ったより小さくなっていた。お医者さんからは時が経つ頃にはほとんど目立たなくなると言われたので安心した。

1月になり私の誕生日にはまた、傷口を治す意味もあり温泉に連れて行ってくれた。でも、いまの淳介は罪滅ぼしで私に優しくしてくれているんじゃないかって思う。また、熱が冷めた頃、浮気を繰り返すんじゃないかと不安だった。私は、淳介に優しくされていることを身に染みてわかる反面、どうしても信用することができなかった。