二足の草鞋 -77ページ目

孤独な道標 【第六章】~リセット~

【第六章】
≪リセット≫

いつの間にか、私たちが知り合って2年が経とうとしていた。

「みるく結婚して欲しい。TDSに行ったときの婚姻届、出してもいいよな。」

「ごめんなさい、まだ、そんな気になれない。もう少し付き合ってから・・・決めたい。だから、来年の自分たちに宛てた手紙でも書いてまた来年ここで逢いましょう。タイムカプセルみたいに・・・そしてその時もまだお互いが変わらぬ気持ちでいることができていたら、結婚してください。」
「そっか。みるくがそういうなら俺はいつまでも待つよ。」

私はまだ淳介のことを信用できていなかった。毎日が不安で仕方なかった。正直、こんなに切ない思いをするのなら別れたほうがいいのではないかと、思っていた。
だから、3年目のBARイノセントで出逢うことはないのかもしれない。そのことを踏まえた内容の手紙を書き、BARイノセントの飲み干したボトルにお互いに寄せた手紙と婚姻届を入れて、マスターの下で保管してもらうことにした。

もし、別れていたらその時はその時だし、そんなにこの手紙が重要な意味をもつとは思っていなかった。むしろ、来年の今頃は、淳介の浮気癖もなくなっていて私だけを見てくれて、淳介の妻になれることを望んでいた。でも、その望みよりも遥かに不安の方が大きかった。

それから1ヶ月くらい経った頃、私たち共通のお友達(カップル)を淳介の家に呼んで、鍋パーティをしていた時のこと、私の心に決定打を打つ事件は起きた。

たくさんお酒を飲み、私も友達の彼もいつのまにか眠ってしまっていた。私はトイレに行きたくなり目が覚めた。隣で一緒になって寝ていたはずの淳介と彼女がいない。

私は、隣の部屋から聞こえるベッドが軋む音に耳を疑った。そっと扉を開けると、そこには口を押さえられ横たわる彼女を抱いている淳介がいた。夢だ!夢だ!と何度も見直したが、夢ではなかった。

私は、台所から包丁を取り出し、鬼のような形相で扉を開けた。彼女は泥酔していて我を失っている感じだった。その扉を開けた音で彼も目が覚め、ものすごい揉め様になった。

私はその彼が目を覚まさなかったら、きっと淳介を刺していたと思う。何度も、何度も息の根が絶えるまで刺してやる勢いだった。彼女と彼はすぐ家に帰っていった。

残された淳介と私は、話合うことは何もないと思っていた。淳介の言い訳など聞くつもりもない。ふとカレンダーに目をやると今日は、私が初めて淳介に抱かれた記念すべき3年目だった。怒りが込み上げてきた。もう我慢できない。
「ごめん。酔ってたんだ・・・。」

「もう、言い訳しなくてもいいんだよ、終わりだから。」

「ごめん。でも、俺は出してないし・・・俺はみるくとじゃなきゃ出せないし。」
バカか、こいつは。出してないからって浮気にならないとでも思っているのか。呆れてものが言えなかった。やっぱり、あの時、欲の塊の棒をサクッと切っておけば良かったと後悔した。いや、待てよ?もし不能になれば、父親と同じ運命を辿るのか・・・。やっぱり親子なんだなって思った。結局は、おぞましい時代は継がれ、何度も何度も繰り返すんだ。

私は何ももう迷う事はない。淳介と別れよう。

延々といい訳が続いていたが、私はもう相手にしていなかった。それよりも、いろいろなものが淳介の所に置いてあったのを持ち運ばなきゃいけない。あとは、たくさん撮った写真や動画もPC上から消しておかなくちゃと思った。淳介との想い出なんて一つも残して置きたくなかった。それが唯一、私自身早く淳介を忘れるための手段だと思ったから。

それから私は、いま勤めるデパートも3月いっぱいで退社を希望した。その間、淳介が仕事中に、合鍵で家へ入りPC上にある写真や動画などのデータを削除した。着替えや、コップなど全て持ち帰った。すぐに、ばれるといけないから、額に入れてあったTDSで撮った模擬挙式の写真だけは残しておいた。

もう、淳介の奴隷じゃない。彼女でもない。

すべてをリセットしたかった。

でも、淳介はなかなか承諾してくれなかった。