二足の草鞋 -27ページ目

孤独な道標 【第十二章】~目論見③~

【第十二章】
≪目論見③≫

“ご主人様”という言葉に異常に淳介は興奮している様子だった。久しぶりに言われて嬉しかったのかもしれない。

私は、淳介の肩を掴み離そうとした。鞄の中からは携帯の振動音が何度も何度も鳴っていた。みるきーだ・・・心配してかけてくれているんだ。出なきゃ・・・でも、力は強く離れられなかった。
「もっと強く抱き締めろ。」
「いやだ、できない。」
「頼むから・・・。」
「出来ないって!」
淳介は私の服の上から噛みついてきた。もう限界だ・・・大声を出して助けを求めようと思った瞬間、“うっ・・・ううっ・・・”と嗚咽をもらしながら涙を流す淳介を見た。

淳介の涙を見るのは3回目だった。

一度目は、軽い冗談のつもりで淳介を縛りあげ放置したとき、気がおかしくなりかけた淳介の涙。

二度目は、私が目を怪我したときに看病してくれていたときの一コマ、自分を悔いた淳介の涙。

そして三度目は、何の涙?自分の思い通りにならない歯がゆさから出た涙?それとも、私を欺くための涙?

淳介は膝をつき私の胸元できつく抱き締め、ただ嗚咽を漏らし泣いていた。

私はそんなアンバランスな淳介の頭に手を置き

「淳介、ごめんなさい。もう、許してください。どうか、これ以上、私と彼を苦しめないで・・・。お願い、淳介。」

「最後に、最後に・・・もっと抱き締めてくれ。」

「これ以上できない。今も、これからも先も、淳介の彼女じゃないから。」

淳介の涙が床に零れ落ち、私の胸元の洋服が淳介の涙で濡れていた。次第に淳介の指輪を持つ手が緩くなった。

私は淳介の指の間から指輪を取り返し、多目的トイレを一人で出た。その後の淳介はいつ出たのかはわからない。
手首を見ると、淳介の歯型がくっきり残り、強く握られた跡形が残り、洋服は淳介の香水と涙で汚れていた。
私が甘いから、いつもこんな結果になるんだよね。みるきーにもいつも心配ばかりかけて・・・何一つ自分で解決できない。

自己嫌悪に陥りながら、みるきーに電話をしてすぐ帰路に着いた。
家に着くころには歯型が少し残るのみで嫌な痕跡は残っていなかったのが何よりも生々しさを消してくれていた。