孤独な道標 【第八章】~執念①~ | 二足の草鞋

孤独な道標 【第八章】~執念①~

【第八章】
≪執念①≫

「久しぶり!」と私たちは仲良く話をしながら居酒屋へ向かった。

「私ね、淳介と別れたんだ・・・。」

「うん知ってるよ、実は淳介から連絡があって。」

そうか、やはり淳介はまだ諦めきれないのか・・・私がこっそり引っ越しをして職場も変えたのが余計に執念を募らせちゃったのかな。

私はY子に、自分のことを深く話すのを恐れていた。せっかく平和を求め、淳介の呪縛から抜けるように引っ越しをしたのに、こうも意図も簡単に私の今の領域を侵されては困るから。

「ねえ、今日、私と会う事は淳介は知ってるの?まさか、ここまで来てるとかないよね?」

「うん・・・大丈夫。何も言わないから・・・。」

私は、Y子に淳介の浮気のことや、かなりの束縛が強いことなどを話した。Y子は聞いてくれていただけで何もそれに対して答えなかったから、私にはY子が淳介の異常な愛に驚いていると思っていた。
次第に話はたわいもない世間話になり私の心も落ち着き始めていた頃、私は自然に自分の今の家のことや職場のことを話していた。昔から警戒心がないとよく言われたけれど、まさか高校時代の頃から親しくしている友人が私を欺くなんて思いもしない。

私たちは終電で家へ帰宅した。

何事もなく平和な日々が続いていた。季節は刻々過ぎ、淳介の嫌いな梅雨になった頃、私は、知人の紹介で回春店という副業を始めた。だから、毎日がとても充実していて淳介のことも考えなくて済むことが多くなっていた。

そんなある晴れた梅雨の中休みの日、会社のお昼休みに外へ出ると腕を組み、ニヤリと笑って立っている淳介がいた。私は寒気を覚えた・・・。

「みるく、探したんだ。やっと逢えたな・・・俺は嬉しいよ。」

Y子だ。Y子が喋ったんだ!私はとても悲しくなると同時に、もう、私は淳介から離れられない運命にあるのか・・・と思い始めていた。

久しぶりに見た淳介は少し痩せていた。私が見立てたスーツを着ていて、クリスマスプレゼントで送ったネクタイを締めていた。私は、淳介からプレゼントして貰ったものはほとんど処分してしまったけれど、淳介は大事にしてるんだね。ちょっと、淳介に対し申し訳ない気持ちになった。

「Y子から聞いたの?」

「ああ、なんとか口を割らせたんだ。まだ、おまえの住んでるところまではわからないが。」

「口を割らせたって、Y子になんかしたの?」

「そんな手荒なことはしてないよ。酒飲みに行って、酔ったY子が勝手に喋ったんだ。それより、いまから休憩なんだろ?俺も、外回り中で、いま休憩なんだ。飯、ご馳走するから食わないか?」
「私が嫌だって言ってもついてくるんでしょ?」

「まあな。」
私は、仕方なく近くの喫茶店で淳介とランチをとった。淳介と話をするのは、なんだかんだと2か月ぶりくらいだった。喫茶店まで歩く道のり、淳介は私の手を繋ごうとする。私は、手を払い淳介を睨んだ。

「なあ、香水変えたのか?」と淳介は私の肩を引き寄せ髪の毛の匂いを嗅いできた。

「えっ・・・あ、うん。変えたっていうかこの手はなに?」

不思議と怒る気にはなれなかった。でも、だからと言って逢えて嬉しいなどという気持ちにはなれなかった。

喫茶店では、別に聞きたくもない淳介の会社での話やお母さんの容態、私がピタリと行かなくなったBARイノセントの話をしていた。

淳介は自分の話が終わると、私の目をじっと見つめ真剣な眼差しで私のことを聞いてきた。

「なあ、みるく。彼氏出来たのか?俺に別れたいって言ったのは、他に好きな奴が出来たからなのか?俺のどこがいけないんだ?」
「もうその話はしないで。彼氏はいないよ。淳介のこともう信用できなくなったから・・・ただそれだけ。」

「俺は、おまえが急にいなくなってどんだけ心配したと思ってるんだ?最近、眠れない日が続くんだ。おまえを想い過去を振り返ろうにも写真は挙式の時の写真だけだろ?どうして、俺の想い出まで奪うんだよ!」
「写真なんてない方がいいよ。過去があるといつまで経っても新しい彼女出来ないよ。」
「なあ、住んでいるところだけでも教えてくれよ。」

「いや、絶対いや。また、不動産屋で鍵を借りてなんてことになったら堪ったもんじゃないからね。」

「ああ、知ってたのか。」淳介はクスと笑った。

このまま話をしても無駄だと思った。いっそのこと彼氏がいなくても彼氏がいるとか言った方がよかったのかなとも思った。1時間程の休憩は思ったより長く、早く戻ろうと思い適当な理由をつけて会社に戻った。

そして私はすぐ、Y子にメールをした。家は絶対教えないで・・・と。

それから、淳介は暇を見つけては会社の休憩時間にやって来て私に逢いにくるようになった。

これじゃあ、何も以前と変わらないじゃない・・・。でも、まだ家は知られていないから大丈夫か。私は、会社を終える時は後をつけられないように気をつけるしかできなかった。