孤独な道標 【第八章】~引越~ | 二足の草鞋

孤独な道標 【第八章】~引越~

【第八章】
≪引越≫

すんなりと淳介が別れていてくれれば、引っ越しをすることもなかった。

私も確かに、淳介との思い出を消したくて、淳介が出張中にこっそり合鍵を使って部屋へ入った。私はもともと淳介から貰っていた合鍵をつかったまで。

でも、淳介は違った。

ある日、不動産屋に更新が間近だったのもあり訪れた際、「ご家族の方はもう帰られたんですか?」と聞かれたのだ。もしかして・・・と思った私は、不動産屋に話を聞くと、やはり来たのは兄と偽った淳介だった。

どこまでも私を追いかけてくる淳介が怖くなった。

止めて!というのに毎日のように家の前で待っていたり、デパートへは何度も訪ねてきたり、欲しくもないプレゼントを送り付けられたりした。

正直、本当はここまで思っていてくれる淳介に、これ以上、浮気さえしなければ・・・また、付き合ってもいいかもしれないと揺らぎそうになった。いつも淳介は悪いことをしたら、その後の何ヶ月間かはとても優しくしてくれるし、大好きな温泉やいろんなものを買ってくれたり、迎えに来てくれたり、サプライズを常に計画してくれて、その時はまた淳介のことを信用できると思ってしまう。

多分、淳介の一種の手段なんだと思う。

器量のいい女性なら、自分に自信がある女性なら、いろんな人と浮気をしても、結局は私のところへ戻ってくるのならそれでもいいのかもしれない。でも、浮気公認の関係なんて私には耐えられない。

それに、何よりも勝手に不動産屋で鍵を借り部屋へ入ったことが許せなかった。不動産屋で鍵を借りたのが私が訪れる10日前だって言ってたから、その間、淳介のことだから合鍵を作って、私の留守中に何度も家に入ったかもしれない。

そう思うといてもたってもいられなくなった。

早急に引っ越しを決めた。ちょうどその頃、うまい具合に淳介が仕事で2週間くらい出張すると聞き、私はチャンスだと思った。

今しかない・・・私は急いで荷造りをし、引っ越しをした。もちろん淳介には教えてない。淳介、あなたが悪いのよ。淳介が私の兄と偽って勝手に家に入りさえしなければ私はここまでしなかった。

私は、デパートを退職し、GW明けから前職とは畑違いの会社で働き始めた。もちろん、勤務先を変えたのも、もう淳介から逃れたかったから。
以前は着信拒否だけだったが、これを機にメールアドレスも変えた。

ここまですればもう流石に追っては来ないだろう。諦めてまた自分に見合った奴隷を探すだろう。

平和な時間が続くと思っていた。だってそうでしょ?普通ここまで拒否されたら、諦めるでしょ?

私が甘かったのかな・・・引っ越しをしてしばらくした頃、私の高校時代の友人でY子からメールがあった。

「みるく、ひさしぶり。メルアド変えたんだね!いまどこに住んでるの?久々に飲みにでも行く?」

Y子は私が淳介と付き合っていたのは知ってて2、3度会ったことがある共通の友人でもあった。でも、淳介が私の友人であるはずのY子には連絡を入れているなんてことはないと思っていた。

週末、私は渋谷でY子と夕方待ち合わせた。時間より早く着いた私は、少しウインドウショッピングを楽しんだ。なんだか、一人で行動するのがとても久しぶりに感じた。

いつも、休みの日はほとんど淳介が一緒にいてくれたし、買い物も一人で選べない優柔不断な私だからいつも淳介が選んでくれていた。
よく愛用していた石鹸をまた買って帰ろうと思い、その石鹸が売っているお店に行きを石鹸を手に取り選んでいた。
そこへ馴染みの店員がやって来て「今日はお一人なんですか?」と声をかけてきた。この店員、私たちのことを覚えてくれたんだ。なんだかホッとしたのは束の間で、その店員が話を切り出しした。

「つい1週間程前にいつも一緒にお見えになる彼、ご来店下さって石鹸を買って行かれましたよ。今日は、贈り物か何かですか?」
私は何も言えなくなってしまった。淳介は私が愛用していた石鹸を買ってどうしているんだろう。自分で使っているのかな?そう思うと、なんだか身近に淳介がまだいるように感じ、もうこの石鹸は使いたくなくなってしまった。

そうだ・・・香水も変えなきゃ。もしかしたら淳介は私が以前から使っていた香水とかも買って、自分に振りかけているかもしれないし。

とりあえず時間が迫っていたので私はY子との待ち合わせ場所に向かった。私は久しぶりの再会になんだかドキドキしていた。