孤独な道標 【第六章】~罪と罰~
【第六章】
≪罪と罰≫
目が覚めると私の手を握り横で眠る淳介がいた。その握ったお互いの手は手錠で固定されていた。ジャラとする音と共に淳介も目覚めた。
「目、覚めたのか。まだ痛むか?何か食えるか?」と、淳介は今までに見せたことのない心配した面持ちで私に話しかけた。
「うん・・・まだ痛い。・・・この手錠は・・・?」
「目覚めたらみるくがいなくなってしまうような気がして・・・。別に変な意味はないよ。」
きっと淳介の正直な気持ちだったんだろう。顔の痛みと、目の痛み、そしてこれからどうしたらいいのかわからない心の痛みが私の心を締め付けた。
「今日は俺も会社休んでおまえの傍にいるから・・・ちょっと飯食って、薬飲んだら、また病院に行って消毒してもらいに行こう。」
淳介は手錠を外し、朝食を作りに台所へ行った。私はその間、帰ろうと思えば帰れたのかもしれない。でも、何も力が入らなかった。何もかも忘れたくて考えることすら面倒なくらいだった。
私が淳介の携帯の自動転送先なんて設定して盗み見した罰?それとも、淳介の股間を蹴った報い?もしそれが原因だとしたら、淳介にはどんな罰や報いがあるというの?
飴と鞭。淳介の調教にはいつも飴と鞭が付き物だった。痛みや苦痛があってもその後にくる優しさのほうが遥かに上だったから多分、どんなに鞭打たれても甘い甘い飴ですべての痛みや苦痛も忘れてしまう。そう・・・きっと、女性が初めて赤ちゃんを産んだ時に生じる痛みや苦痛でもう嫌だと思っても、その後の生命の誕生と赤ちゃんの温もりに痛みや苦痛さえも忘れてしまうという、そんな現象だと思う。
そんな飴と鞭の使い方が淳介は上手だったのかもしれない。別れようと決断したのに、もう、堕ちるところまで堕ちてしまおうかと思い始めていた。
淳介は、お粥と果物をベッドまで運んでくれて、私を子供のように扱い、すべて食べさせてくれた。薬を飲み、昨夜血だらけのままだった服を着替えさせてくれて、トイレまで付き添ってくれて、私の傍を一時も離れることはなかった。
病院に着き、診察中もずっと付き添ってくれていて私が聞きたかった医師への心配ごともすべて淳介が聞いてくれた。殴られたとき、ハードのコンタクトをしていたから、もう一度、眼底の検査や網膜の検査をしっかりしてもらった。異常はなく一週間後の抜糸まで家で安静にし、消毒も家で行ってもいいと言われ、ひと安心した。
家に帰ると、私をベッドに寝かせ、ベッドに跪き淳介は私の手を握りこう言った。
「手を出して、こんなことになってしまって本当に申し訳ない。女に、それも大事な、自分の彼女に手を出すなんて・・・サイテーだよな。本当にごめん。みるくの体調とその傷が完治するまで傍にいる。もし、その後、それでも別れるというのなら、それは仕方がない。でも、俺は自分のしたことに責任を取る。だから、一週間は俺の彼女として俺がみるくのすべての面倒を看る。ごめんよ、みるく・・・いつも、辛い思いをさせて・・・本当に、ごめん・・・なさい。」
淳介の目からは涙が零れていた。私は、何よりも、淳介の奴隷ではなく彼女といってくれたことが嬉しかった。片目からしか見えない淳介の顔がますます自分の流す涙で見えなくなっていた。