『昭和天皇と鰻茶漬 陛下一代の料理番』
谷部 金次郎、河出文庫、2015年
昭和39年3月。17歳で宮内庁の大膳課だいぜんか、つまり皇室の料理人に採用された谷部氏。そこから昭和天皇の崩御のときまで仕えていた方で、日々の出来事や料理を通したお話が書かれています。
年に1.2回、京都から届く茶漬用の鰻が特にお好みだったようで、そこから本書のタイトルにもなっていますね。
皇室で出される日々の料理は、豪華絢爛というものではなく、やはり質素でバランスのとれたものだそうです。ふつうの家でふだん食べているものと変わらず、食器も同じく。箸も柳箸という割り箸のようなものを使われていたとのこと。
そして、少なくとも昭和の頃は朝食はおおむね洋食、昼食と夕食で和洋どちらかと決まっていたそうで、それぞれ係が分かれているんですね。
そのほかにも菊栄親睦会の方々との在位60年のお祝いの会のときや、園遊会、さまざまな儀式の際に出される食事のことなど、外からは伺い知らない内容で興味深いです。
ほかにも「宮内庁御用達」のことや東久邇家のお子様方との卓球、ご自身の結婚のことなども披露されています。
加えて、すごい料理をつくるのはもちろんとして、日々の当たり前の料理をおいしくつくることの大切さを語られていて、谷部氏にとってお客様はつねに両陛下のみ。献上品がきたりはしますが予算はそこまで潤沢ではない中、同じ食材であっても料理法や味付けを変えて飽きのこないように工夫されるのが「腕のみせどころ」というお話でした。
現代の食についての考えも示されていたり、食という面から皇室を知ることのできる一冊となっています。