今回は、式子内親王の和歌をお読みになりたい方のブックガイドとします。
やっかいなことに、式子内親王に限らず、新古今時代の歌人の作品を味わうには、相当の古典教養が不可欠です。『万葉集』、『古今和歌集』などの古典和歌集だけでなく、『伊勢物語』『源氏物語』などの(歌)物語、漢詩を取り込んだ『和漢朗詠集』などを知悉していないと、和歌の価値どころか、趣意も分からない場合もあります。つまり、詳細な注釈、本歌、本説などの指摘が、式子内親王の和歌をより深く味わうには必要なのです。それから、式子内親王の和歌は、決して平明ではなく、倒置や体言止めなどで、複雑な構造をなしていることが多く、また縮約表現も多用し、説明的な詞は省きがちで、歌意が難解な場合も少なくありません。したがって、編著者により、解釈が異なることが往々にしてあるのです。これから、本を紹介しますが、これらの点をまずご理解願います。

 まず、詳細な注釈、本歌、本説などの指摘がなされた注釈書は、版も厚く、かさばるし、高価格なので、まず、式子内親王の和歌をほとんど知らない方は、現在一番入手しやすい

〇コレクション日本歌人選010 式子内親王(平井啓子編、笠間書院 2011)

これはシリーズもので、代表作45首が厳選されており、丁寧な解説付きです。解説は上質のエッセイ風で、味わい深い文章で書かれています。本歌、本説とされる和歌、物語の箇所、漢詩文(句)も適切に織り込まれており、そのほか影響を受けた、あるいは与えた和歌も適宜引用されています。この一冊を読むと、式子内親王のみならず、新古今歌人の歌風、特徴もなんとなくつかめてきます。ともかく、最初に読む書としてお勧めです。この編者には、博士論文を元にして、その後の研究成果も加えた『式子内親王の歌風』(翰林書房 2006)もあります。学生時代に短歌を作っていたそうです。

 

式子内親王 奥野陽子 著 | レビュー | Book Bang -ブックバン-




*ともかく、詳しい注釈、解説がなくても、式子内親王の和歌全てを知りたいという方には、アマゾンの電子書籍Kindleに2種あります。

〇式子内親王集(文化九年版) 清水浜臣校訂  平成29年  和歌のみ、注もなし 
〇校訂式子内親王集(補訂版) 編著者 佐々木信綱 補訂者 水垣久 平成29年改訂版
                  簡単な注釈と本歌・本説も記載

*式子内親王の和歌を本格的に学びたい方に注釈書を2冊紹介します。

〇『式子内親王集全釈』 奥野陽子著 風間書房 平成13年 

とにかく語釈が驚くほど詳細です。詞句ごとに、古典や同時代の和歌の同じ詞句をもった和歌を何例も引用しています(これは式子との比較で、非常に役立ちます)。この徹底的とも言える作業により、逆に式子内親王がいかに多くの独自な表現、秀句を生み出したか、よく理解できます。読みも深く、精妙(時に、すぎる?)です。「補説」でさらに深掘りしています。通釈はちょっとくどく感じられます。本当に細かい点まで行き届いているのですが、そのためか文章が読みづらくなっています。でも、和歌の引用数がものすごく、このことだけでも労作で、この書を完成するのに、並大抵でない時間を要したと思うと、頭が下がります。761頁もあり、ずっしりとしています。日本の古本屋で検索しましたら(2024/05/26現在)、八木書店で14000円で販売されていました。式子内親王の和歌を本格的に学びたい方には必携でしょう。僕がブログ記事作成するのに非常にお世話になっている書です。

〇 『式子内親王集全歌新釈』 小田剛著 新典社 2013

上記本に比べると、はるかにハンディです。この著者の主な関心は、本歌、本説探しにあるようです。そのおかげで、いかに式子内親王が和歌を詠むのに、古典や同時代の和歌を幅広く深く読み込んでいたかが分かります。諸書の解釈、注を簡便に載せているのも有難いです。ただ、奥野氏が、本歌、本説とするのを退けているものも結構あって、注意が必要です。本歌、詞、句が『源氏物語』を典拠とするものがかなりあり、やはり式子内親王にとって、『源氏物語』は、欠くべからざる書であったことが確認できます(単に和歌の素材としていたわけではないのです、人生の書と呼べばいいのでしょうか)。通釈も、奥野氏と異なることが多々あります(まあ、仕方ありませんね、式子の歌は解釈が難しい場合がよくありますから)。

*最後に、僕が所有していない式子内親王の和歌集を2冊

〇『式子内親王全歌集』改訂版 錦仁編 桜楓社 平成8年

〇『式子内親王集/俊成卿女集/建礼門院右京太夫集/艶詞』(和歌文学大系23) 石川泰水校注 明治書院 平成13年