Alesis Nitro Mesh Kit が手に入ったのでRoland製品と比較して検証してみました。


あまり使ったことがないので、淡々と無駄に細かく書いている部分もあるので、面倒でしたら、最後の総評だけ読んでくださいませ(買う気満々の人は全部読むと決断したり迷ったりできるかもしれませんw)。

[音源]
操作パネル・筐体サイズ共にMEDELI DD-512とほぼ同配置です。
基盤上のメインチップらしきものにもMEDELIの刻印がありますので、性能共に同等と思われます。


ボタンは大きめのゴムなので押しやすいです。
 

液晶表示はドット描画でなくデジタルと固定表示のみなので、メニュー選択・設定も最初は分かりにくいです。
が、そこまで複雑な操作はないので、慣れれば普通に使えると思います。
パッド設定などの内容の保存はSAVEボタンを押す必要があります。

 

パッド拡張端子(タム4 クラッシュ2)があります。
メトロノーム・トレーニング機能はあるので、トレーニング使用も十分可能です。
 

USB端子(USB MIDI)とMIDI IN・OUT端子があります。
この価格帯でMIDI INがあるのはめずらしいですが、USB MIDIがあるのでメリットは少ないかも知れません。
 

本体が外部(電子レンジ、インターホンなど)のノイズを拾いやすいです。
これらの付近(1m程度)で使用するとヘッドフォン出力に雑音が入りました。
基盤のノイズ対策(シールド)が不足していると思われます(同じ環境でRoland製音源ではノイズは入りませんでした)。

[キット、サンプル(ボイス)]
キット数は40(プリセット24 ユーザー16)です。
音質はキットによって品質の差が大きい印象です。
一部キットではおそらく遅延とサンプルのアタック部波形とのズレによる違和感が大きいように感じます。
遅延は旧世代機ほどではない程度にはありますが、しばらくすると聴き慣れる程度です。
 

キットで使われていないサンプル(ボイス)が結構あります。
これらのサンプルをキットに組み込むことで使いやすいキットにできるので、プリセットのキットのカスタマイズは推奨です。
 

ヘッドフォン出力は低いです。
普及品(5000円程度)の密閉型ヘッドフォンで
ボリューム最大でもハイハットパッドの打撃音が少し聞こえます。
なるべくインピーダンスの低いヘッドフォンを使うほうが良いと思います。
低インピーダンスで比較的高性能なヘッドフォンを使うと音質がかなり良くなるのでおすすめです。

デフォルトのパッド感度はパッド(パート)毎の音量にバラツキが大きいです(デフォルトだとハイハット大きく、スネア小さい、クラッシュは大きい印象)。
これらはパッド音量の設定でもある程度調整可能ですが、叩く強さで自然な音量変化を出すためには感度調整は必須です。
叩く強さによる音色変化のバリエーションは少ないです。
第2世代のV-Drums(TD-3)と同等の印象です。
 

ハイハットのハーフオープンは1段階のみで、フルオープンを低くして音量を小さくした音です。
フットスプラッシュ音は不自然な鳴りに感じます。
音源の処理の都合なのか、フットクローズを鳴らしてからスプラッシュ音を鳴らしているように聞こえます。


フットスプラッシュ音の鳴らしやすさの設定が可能です。
設定値としては7未満はほぼ鳴らない(添付のハイハットペダルの場合)ので、鳴らし分けは7~9の間で調整することになると思います。
私の場合は7がヒールでのスプラッシュ、9がトゥでのスプラッシュを鳴らす感覚でした。
 

スネアのプレスロールは細かい部分で音が拾い切れていないように聞こえます(もしくは粒が荒く聞こえます)。
スネアのリムは主に叩く強さでクローズリムショット~オープンリムショットに連続的に変化します。
ヘッドと別にリムショットの感度調整が可能です。
 

シンバルパッドはエッジショットには対応していません。
クラッシュの連打のつながりはサンプルの少なさの割に良いです(スプラッシュ等の小径シンバル以外)。
ライドは叩く強さでピング(チップ)音からベル音(強打)に変化します。
 

タムのリムショットは音源自体は対応しています。
標準品のパッドの方が対応していないので、タムパッドをリムショット可能のパッド(スネアパッド相当)に入れ替える必要があります。
 

プリセットのキットではタムのリムのバリエーションは少ないです。
キット1では、
タム1、2:タムのリム音
タム3:カウベル
タム4:エレクトロ系ハイハットオープン


その他のキットは主にリムショット(クロススティック)音のみです。
タムのリム音はインスト(ヴォイス)一覧から選択して変更することができます。
スプラッシュやチャイナ等の金物系やコンガ系、クラップなども割り当てて使うことができるので使い勝手は良いです。
ライドパッドにクラッシュサンプルを割り当てたり、増設クラッシュにライドサンプルを割り当てることもできます。

[パッド共通]
Rolandパッドと比較して配線が細いですが、ピエゾ、ジャックとの接合部には振動による断線対策がされています。

[スネア、タムパッド共通]
メッシュパッドは黒色の二層構造です。
黒色で透けやすいためと、多少の防音対策にメッシュ裏面にスポンジシートが重ねてあります。

打感はメッシュなのでRoland製と似ていますが、ロール時や斜めからのショット時に少し滑りやすい印象です。
実際の打音もRolandと異なりますが、騒音レベルとしてはどちらも同等です。

ヘッドテンションはテンションボルトで調整可能です。
 

リムフレームが樹脂のため、きつく締めるとたわみます。
その程度まで締めないと充分なテンションがかかりません。
 

パッドのフレーム形状はMEDELI製品に似ています。
ヘッドが8.5インチと小径なので、ヘッドに対してリム位置が高いです。
こぶしをリムの高さまで落としたりタップストローク時に誤ってリムを叩きやすいです。
 

ラックマウントへの固定はパッドの水平方向からロッドを差し込むタイプです(Rolandは主に垂直に差し込むタイプ)。

[スネア]
センサーがヘッドの中心なのでヘッド全体の感度は自然に感じます。
Rolandパッドに多い中心の急激な音量変化は、センサー構造の工夫によって対策されています(センサー中心からメッシュ接触面を4点に分けて分散)。
リムショットが可能です。
リムセンサーはRoland PD-85などと同様、フレーム底面に配置されています。
リムセンサーはRolandパッドよりも感度が低いので、Rolandパッドをそのまま使うと感度が高過ぎて二度鳴りなどの誤反応がしやすくなります。

[タム]
Roland PDX-8のようにセンサーをリム付近に配置しているので、パッド全体の感度がパッド手前を中心に扇状に広がっています(パッド手前側が感度が高く、奥側になるにつれて感度が下がる)。
タムのリム付近を意識して叩かなければ問題はないと思います。

[シンバル]
パッド表面のラバー部はRoland製よりも薄く密度も高くないので、耐久性は低いです。
このためパッドの樹脂フレームへの打撃も強く伝わるので、パッドの割れやラバーの摩耗はRoland製よりも起こりやすいです。
 

シンバル受け部分は半球形のため、左右方向からのショットでも自然な揺れに近いです(Rolandパッドは前後方向のみにしか揺れません)。
ただしパッドのサイズが小さく軽いので、この恩恵は小さいです。
シンバル受けに付いている回り止めは樹脂の突起のみなので耐久性に不安を感じます。
 

チョークはエッジ裏面にあるセンサー(メンブレン)で行っています。
エッジセンサーの幅はRoland製よりも狭いので(パッド手前から左右10cm幅程度)、パッドの手前を意識してつかむ必要があります。

 

チョークはクラッシュ以外に、ライドのチョークも音源で対応しています(未検証ですが、クラッシュ2も対応していると思われます)。
ライド側は標準品のパッドが対応していないので、チョーク対応パッド(クラッシュ相当)に入れ替える必要があります。
 

センサー~ジャック間にチップ抵抗が配置されています(ボウ、エッジとも各2個)。
想像ですが、不要な振動によるボウの二度鳴りやセンサーの誤接触などの微細な電圧の簡易フィルターとしているのかも知れません。

シンバルパッドの基盤にはDD512(MEDELI)の刻印があります。
基盤とカバーを固定している使用ネジ数がRoland製よりも多いです。
シンバルロッド受けのラバー部はカバーと独立しているので、メンテナンス性は良いです(が、パーツ単品供給はなさそうなので破損時はメーカー修理にはなると思います)。

[キックパッド]
ヘッド面はラバー製です。
基本構造はRoland旧キックパッドのKD-8に近いです。
金属同士の固定にステンビスを使用しています。
外観は金属フレームのRoland KD-10に近いですが、軽いので、標準添付のキックペダルと組み合わせて使うとパッドの揺れが大きくズレやすいです。
マジックテープが貼り付けしてあるので、カーペット設置でベースプレートのあるキックペダルを使用すればズレやブレは減ると思います。
ヘッド部の構造は3層構造(KD-8は2層)ですが、打感の差はあまりない印象です。

[ハイハットペダル]
音源との接続がHHペダルのみ3.5mmジャック(他は6.3mm)と細く、他のジャックよりも耐久性が低いです。
特に足元なので衝撃によって折損しやすいので扱いに注意が必要です。
ペダルは踏む位置によって内部のメンブレンスイッチの押下位置が3段階(オープン、ハーフオープン、クローズ)で変わることで位置を検出しています。
なのでRoland製のように連続的な位置検出はできません(音源側も3段階のみに対応します)。
ただし、Alesis製品の上のクラスの音源とペダルだと連続的な位置検出に対応しているものがあるようです。
 

2022/9/6 追記~

正確にはこのペダル自体は5段階(クローズ、ハーフ1~3、オープン)で検出します。

メーカーではこれをコンテニュアス(連続的)な位置検出としているようです。

またハーフの各段階の踏み位置は等間隔ではありません(センサーの検出値としてはおそらく等間隔です)。

特にハーフ1とハーフ2は踏み幅としては非常に狭いので踏み分けが困難です。

ただしNitro Kitではハーフ音はハーフ3しか認識しません。

これはおそらく踏み位置を判断するためではなく、フットスプラッシュ音の鳴らし分け等のためにペダルを踏む速度を検出するためのものと思われます。

ちなみにヤマハ製ハイハットペダルも同様な位置検出の仕組みですが、センサーの検出値の範囲は異なります)。

~追記終わり


[ラック]
縦パイプ径34mm(Roland 38mm)、横パイプ径25mm溝付き(同 38mm)です。
細径のアルミパイプのため安定性は少し劣りますが、折りたたんだり、移動する場合は軽量のメリットは大きいです。
揺れますが、倒れる程ではありません。
横パイプ側クランプにはラックパイプに固定する突起があります。
この突起をパイプの溝に合わせて差し込みます。
角度調整はクランプ内部のカラーを回すことで行います
フリーではなく、段付きなので、タムパッド同士で角度を合わせやすいです。
ウイングボルトは樹脂製で、M4ネジに差し込んでパッドを固定します。
ラックマウントはM4キャップビスとナットで固定します。
いずれもRolandとはサイズが異なるのでそのままでの流用はできません。

[シンバルロッド]
ロッド本体はおそらくスチール製で、ジョイント部分・ウイングナットは樹脂製です。
耐久性は高くはないですが、無理に締め付けたり乱暴に扱わなければそこまで破損は多くないと思います。

[L字ロッド]
形状はRolandと似ていますが、直径が小さいため互換性はありません。
パッド固定側に縦溝(ローレット)が入っています。
ラックマウント側に切られた溝に噛ませて固定するので、位置調整はフリーではなく段付きになります。

[給電]
ACアダプター(DC9V センタープラス)です(Rolandは主にDC9V センターマイナス)。
音源への配線が細いので、Rolandの現行製品のアダプターよりも断線しやすいです。

[総評]
Nitro MeshキットはAlesisでのローエンドモデル寄りの製品なので、Roland製品を使っている人がこのモデルに乗り換えると満足できないと思います。
また、発音の自然さもRolandよりは劣りますが、演奏の楽しさや練習用途には十分使用できます。
良くも悪くも電子ドラム然としているので、この機種で初心者からドラムの練習を行う場合は、スタジオの生ドラムを並行して叩いて感覚の違いを知っておくことをおススメします。

ラック、ラックマウント、シンバルロッド、L字ロッドのサイズはRolandと異なるので流用はできませんが、サイズが小さく軽量なので折り畳みや可搬性は良いです。
 

メッシュヘッドのパッドの打感も良いです。
耐久性も悪くはないと思います(ささくれたスティックを使用したりしなければ)。
スネア・タムパッド共にヘッド中心の不自然な音の変化はありません。
ヘッドに対してリムが高いので、小径のメッシュパッドはリムが邪魔に感じると思います。
 

耐久性はRoland製と比べると劣る部分は多いですが、基盤・カバー部分やシンバルパッドのロッド穴付近の構造は良いです。
致命的と言える欠点は無いので、価格に見合ったパフォーマンスは充分出ていると思います。

MEDELIと多くのパーツで共通化しているように見えますが、最低限必要な耐久性を維持する対策はされているようです。
長期的(1年~)な耐久性ではRolandには劣りますが、現状パッド類の市販のパーツ供給も多いので、直しながらになりますが長期間の使用にも対応可能だと思います。
Alesis間でもパッドの互換性があるものが多いので、音源部の入れ替えも行いやすいと思います。

Rolandより安価に求めたい場合は、コスパは悪くないです。
ただし最近はRolandもTD-1等の安価なモデル展開がされているので、コスパのアドバンテージは以前よりも小さくなっている感はあります。
他の楽器でも当てはまると思いますが、価格だけで判断すると特に失敗しやすいです。
月並みな一言ですが、しっかりと比較検討して選ぶことは大事だと思います。

ということで、何か締まりの悪い感じでスミマセンが、検証と所感でございました。