最終回「じゃーん!笑顔が満ちる世界に」


「ミヤネヤ……敵だったけどあんな最後なんて辛いじゃんよ」
「あれだけの爆発だったら倒せたかも」
アイカの期待に謎の小動物は悔しげな表情をした。
「無駄だトロ」
「え?」
「ナノマテリアルによって生み出されたエネルギーは吸収されてしまうん

だトロ」
「えー!?じゃあ魔法が効かないってこと?」
「そうだトロ。ダメージを与えられるのは通常攻撃だけなんだトロ。しか

しそれも強固なナノマテリアル装甲によって防がれてしまうんだトロ」
「もうっ。それじゃ無敵ってこと?何なのあいつー」
「あれの名はキュアオーガ。巨大プリキュア兵器だトロ」
「あんなのがプリキュア?そんなのおかしいよ」
「君たちが今まで戦って生み出してきたキュアナノマテリアルを元に動い

ているんだトロ。実は変身アイテムを通してあの兵器へ転送されていたん

だトロ」
「そんなっ勝手すぎるよ」
「すまないトロ」
キュアオーガから男の声が聞こえてきた。
「ははは。プリキュアもどきたちよ、これこそが本物のプリキュア、我が

国の強さと正義の象徴キュアオーガだ」
「強くて世界を守る正義の使者、それこそがプリキュアだ。ならばこのキ

ュアオーガこそがプリキュアと言えよう」
「議員長、それは違うトロ。あなたは世界を守るために戦っているんじゃ

ないトロ。権益を得るための戦いをしているトロ」
「黙れっ。裏切るつもりなのか?強大な権益を我が国が保有し管理せねば

、世界はいつまでたっても平和になんかならないのだ」
「僕は国を裏切るんじゃないトロ。あなたのやり方に賛同出来なくなった

だけだトロ」
「わたしもあなたの考えは賛成できないよ。世界を守りたいっていう純粋

な気持ちが感じられないんだもん」
「アタシもユメノと同じじゃんよ」
「お姉ちゃんと同じー」
「私もユメノちゃんの言うとおりだと思う」
「ふん。所詮は子供か。世界がどうやって動いているかも分かっていない


「どのみちこのキュアオーガが起動した今、お前たちの利用価値はあと一

つだけだ」
「反抗者となったプリキュアを倒し、私の強さと正義をアピールするのに

利用させてもらおうか。ははは、そうすれば私の存在はより強大なものに

なるぞ」
「君たちにあれをやっつけてもらいたいトロ。あれは僕の国の汚点だトロ


「あなたの国がどうかなんて知らないけど、村の人が困ってるのは放って

おけないよ」
「ミヤネヤにも頼まれちまったしな」
「でも、私たちの魔法が効かないならどうやって倒せば……」
サクラコとウメコが目を合わせると、ニヤリと笑った。
「私の技で何とかできるよー」
「そうじゃんよ」
「なら、あいつをやっつけるよ。みんないくよ!」
『おー!』


プリキュアたちの戦いが始まった。
キュアオーガも標的をプリキュアたちに絞る。
「みんな!キュアチェリーが魔法が効く場所を作るからそこを狙うじゃん

よ」
ウメコがサクラコを守り、空間の物理法則をずらす魔法の発動を援護して

いる。
「あー。魔法を吸収するフィールドが難しくて上手くいかないよー」
「頑張るじゃんよ!サクラコなら出来るって」
「うん。頑張ってやってみるよー」
「何をしようとしてるか分かっているぞ。まあ、やってみればよい」
議員長の余裕が慢心となるのを信じてプリキュアたちは作戦をやめない。
「よーし。出来たー」
「みんな!今じゃんよ!」
「えーい!」
フィールドの効果を無効にした場所へプリキュアたちの魔法攻撃が降り注

ぐ。
しかし、かすり傷を負わせる程度しか出来なかった。
「そんな!?」
「ははは。このキュアオーガがナノマテリアル位相式変換システム頼りの

防御なわけがないだろう。世界を守るためあらゆる攻撃を想定した防御力

にしてあるのだ」
「でも弱点さえつけば」
「何かないのー?」
謎の小動物は頭を左右に振った。
「すまない。僕は開発に一切関わってないから分からないんだトロ」
「キュアオーガは無敵なのだよ。諦めてやられてしまえ」
激しい攻撃の雨に撃たれてプリキュアたちは大きなダメージを負ってしま

った。
倒れたアイカは目の前の光景を見て考えこむ。
そこにはミヤネヤの自爆攻撃によって崩壊した地面によるクレーターがあ

った。
そのクレーターから炭鉱道が見えている。
「わたしは……諦めない」
体の痛みを堪えながらユメノが立ち上がると、それにつられたかのように

他のプリキュアたちも立ち上がりだした。


「みんなよくやったトロ。だけどもう勝てる見込みは無いトロ」
「せめて奇跡を信じて最後にこれだけは届けるトロ」
後方で待機していた周辺国軍の車にいつの間にかたどり着いていた謎の小

動物は、手にしたCDを再生する。
車は大きなスピーカーを積んだ軍用車で、村中に聞こえるほどの大音量が

流れた。
「何でこんな時に曲を……」
「この曲は君たちの事務所の人から預かったものだトロ」
「君たちへ会いに行った病院で偶然会って、君たちに届けるように言われ

たんだトロ」
「じゃあ、この曲って――」
「わたしたちの曲……」
「この曲素敵。はやくやってみたいよ」
「だったらこんな所でやられてる場合じゃないじゃんよ」
「ははは。バカめ。そんな曲を流したところで何になるというのだ。葬送

曲のつもりか」
「あなたには分からないトロ。彼女たちは奇跡的な力を発揮させることが

出来るんだトロ」
アイカがみんなを手招きした。
「ねえ、どうもこの辺の地盤って空洞だらけっぽいの。だからキュアオー

ガをここに誘い込んで地面を壊せば――」
「上手くいけば埋めることが出来るかもしれないじゃんよ」
「落とし穴みたいなものかな?」
「とにかくやってみよう」
ユメノだけはよく分かってないが、作戦決行が決まった。


傷ついた身体を振り絞って相手を誘導する。
「おらおらこっちだ。かかってこいじゃんよ」
「やーい。お尻ぺんぺん」
「ふざけおって。ピンチすぎて気が狂ったのか」
プリキュアたちを追って攻撃しながら誘導されてゆく。
予定の場所に誘い込んだ瞬間、ユメノが合図を出した。
「みんな、今だよ!」
「効かないといってるだろう。いや、下を狙ったのか?」
地面を砕いた途端に轟音を立てて一気に地面に穴が空いた。
キュアオーガが自身の超重量で地盤を壊しながら沈む。
「なんだとっ!?そんなバカな」
「そのまま沈みきっちゃえー」
しかし、プリキュアたちの願いは虚しくあと少しの所で沈みきらなかった


「あと少しだったのに」
「どうするユメノちゃん。上から土をかけて無理矢理埋めちゃおうか」
地面から頭を出しているキュアオーガがスラスターを点火させて飛び出し

た。
「えー!?飛べるの?」
「なかなかいい作戦だったじゃないか。しかしもう茶番は終わりだ。今度

こそ倒してやる」
「むっ?」
脱出した穴の底で水晶のように綺麗に輝く鉱石群を議員長は見つけた。
「ついに見つけたぞ!レアマテリアル鉱石」
「この地を治めるのは全てこのため。現地人どもが秘匿し続けて痺れをき

らしていたが、まさかこんな偶然に発見できたとは」
「やはり神は私に微笑んでいる」
「そういうことだったのかトロ。どおりでここに執着していたわけだトロ


「やっぱり私利私欲じゃんよ」
「そんなもののために村を……みんなを……許せない」
「それだけの価値があるのだ。世界が変わるぐらいの代物なのだよ。それ

を分からない者達が、掘り集めてただ奉っているだけなんてバカげている


「バカげているのはあなたよ。ここの人たちの暮らしを巻き込んでいい理

由にはならないよ」
「正しく使うのがいけないことかね」
キュアオーガの攻撃でプリキュアたちが危機に陥る。
「きゃー」
ユメノ以外が全員気絶してしまった。
「みんなっ」
「感情や同情に流されて世界をより良い方向へ導けないようじゃプリキュ

アとは呼べんぞ」
「プリキュアはそんなんじゃない!」
体が限界で反撃の力が起きない。
反論するだけで精一杯だ。
「こんな鉱石を使わなくたって、そんな巨大兵器なんかなくたって、世界

を平和に守ることが出来るよ」
「ほう、どうやって」
「この曲だよ」
さきほどからずっと新生SODの曲が流れている。
「ははは。はーはっはっは。本当に面白いジョークだ。君はアイドルなん

かよりコメディアンの方が向いているんじゃないかね」
ユメノの目は真剣だ。
「こーいう人には言っても分からないじゃんよ」
「だからいつものユメノちゃんで」
「みんなっ。大丈夫?」
気絶から目を覚ます仲間たちを見てユメノは一安心した。
「わたしたちはプリキュア。そしてアイドルだよね!」
「もちろんー」
「じゃんよ」
「うん」
「まだ起き上がってくるのか。無駄だというのに」
彼女たちは曲に合わせて歌い出した。
すると、謎の小動物は何かを思い出したかのように通信機を取り出した。
「歌っているだと?こんな状況でか?構わずやっつけてやる」
キュアオーガの攻撃をひらりとかわすプリキュアたち。
回避運動をしながら踊っている。
「えーい。あんなに隙だらけなのに何故当たらん」
攻撃の雨を更に激しく降らせるも、魔法で弾かれる。
「もうあいつらのキュアマテリアルは使い切っているはずだ。なのに何故

だ!」
「何故そんなにも笑っているのだ」
笑顔で明るくプリキュアたちは踊る。
「みんなを笑顔にしたいから」
ユメノたちの想いに応えるかのようにレアマテリアルが光を放った。
「反応した!?」
レアマテリアルから放たれた虹色の光がプリキュアたちに注ぐ。
「やつらのキュアマテリアルが計測不能の値を出しているだと!?」


女社長の携帯に着信が入った。
「この番号……あの変な生物から」
通話に出ると歌が流れてきた。
その歌を聴いた途端に急いでマネージャーの病室に戻った。
「届いたわよ。あの子達に」
意識が朦朧としているマネージャーに歌を聞かせてみせた。
「ほら。すごく素敵。そう思わない?」
問いかけるが、言葉は返ってこない。
ただ、嬉しそうな表情が返ってきた。
「でしょ。これは人気出るわよ。あの子達が帰ってきたらパーティーしま

しょ。ね?」


眩い光を身にまとったユメノたちの姿はさながら地上に舞い降りた天使の

ようだ。
光の翼を大きく広げ上空へと舞い上がる。
「この世界に必要なのはそんな兵器なんかじゃない。みんなを癒し、励ま

す夢の光……アイドルだよ!」
「なんだというのだ!?この圧倒的な存在感は!」
「プリキュア!ファイナルファンタジー!」
ユメノたちの究極必殺技が放たれ、キュアオーガが大きな爆発を起こした


「ぐあああ!これがアイドル……プリキュアの力かぁぁぁ!」
キュアオーガは完全に敗れ、戦いは終わった。


こうして巨大兵器をとめたユメノたちだったが、キュアオーガによって無

残に破壊された現地は凄惨な姿を見せていた。
「酷い有り様……」
絶句し立ち尽くす仲間たちの手を握ってユメノは笑顔を見せる。
「ここの人たちみんな、いっぱい傷ついている。だからこそわたしたちア

イドルの出番じゃないかな?」
ユメノの提案を受けて仲間たちの顔が晴れた。
「ええ、そうね」
「やるっきゃないじゃんよ」
「頑張ろう」

ユメノたちは今日も歌う。
明日も踊る。
人々の心に光を届けるために。


おわり。