全ての夜が今日明けるのだ! | Proof of...

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祈る神を持たない僕は、ただ言葉の力を信じている。全ての言葉に僕の意味を。

 とある日、僕は時計を忘れた。
 しかし習慣とは怖いもので、ふとしたときについ左手首を見てしまう。その度に何も無い血色の悪い肌を見るのが嫌になり、それは本当にちょっとした出来心で、僕はマジックでそこに腕時計を書いてやった。
 時刻は三時。
 午前だか午後だかは知らないが、まぁ何とも安直だ。九十度に曲がった時針と分針は長さが同じで、それを円で囲っただけの。我ながら馬鹿馬鹿しいことをしたと自嘲してみる。

 その時だ。急に世界は闇に包まれた。
 通りから人は失せ、静まり返った街にポツリポツリと忘れたような明かりが灯る。まぁ要するに、僕の時計が指していたのは午前三時だったということらしい。
 さて。と僕は思案する。帰って寝るにしたってちょっと遅すぎるし、なにしろ眠くない。朝まで飲むような気分じゃないし、そもそも僕は一人酒の趣味は無い。どうやら僕はこの午前三時を完全に持て余してしまったようだ。
 とりあえず一服、と喫煙所を探すが見当たらない。誰もいないのだからとも思うが、吸い殻のことを思うと心苦しい。
 そんなことを考えているうちに、加えた煙草からは紫煙が昇っていた。まぁ、僕はそんな人間なのだろう。

 どこに当てがあるでもなく、僕は街を歩く。
何か面白いものがないかなと、物色していると、ゴミ捨て場に一本のギターが棄てられている。それの一番太い弦を鳴らしてみる。ぼーん。ぼーん。ぼーん。ぼーん。
 ぼぼぼぼぼと気だるい音を立てて、新聞を積んだカブが僕を追い抜いていく。
 左手首に刻まれた時刻は午前四時。
まだ寒いこの季節では、空が白むには早い。始発電車にも早い。しかし遠くからコォォォと貨物列車だろう音が聞こえてくる。
 それはまさにこの時間の象徴のように、何者かの、何かしらの思惑を孕んでいる。蠢くものの気配を感じるのだ。あの垣根の裏にも、駐車場に並ぶ車の座席にも、何かの息吹きが隠れている。
 それがたまらなく嬉しい、と僕は声に出してみた。
誰もいなくなってしまったみたいな街にも、誰かがいる。僕と同じような、はたまたまったく違った理由で。
地球の裏側で、今誰かが笑ってる。誰かが泣いている。誰かが怒っている。だとしても僕には何の関係も無い話だと一蹴するのは簡単だ。けれども夜は明ける。
 僕の左手首の、思いがけない魔法のような、この素晴らしい時はもう霞み始めて、哀しいけれど。
新しい陽が昇る。なんだかんだ言ってそれこそが僕の呪ったもので、僕の望んだものなのだ。
今日この日、今こそが全てなのだと、そして明ける日こそ僕の望みなのだと、無条件に明日はやってくるとは信じれない僕の、朝の可能性を感じるこの時間こそがそうなのだ。