鍵
「あたしはあなたとは違うの」
遠回しにそう言ったも同然だね
そんなつもりはなかったんだけど
長い家路を歩いて玄関の前
ないわけではなかったのかもしれない
ぽつりと思った
変なプライドはさっさと捨てた方が
今後の人生に有益だと思う
わかってはいるのだけれど
常にその可笑しなプライドが邪魔をする
あたしは思考の裏付けがあって
敢えて此の道を歩いて来たの
だからそういう生き方は厭なんだ
選ぶ必要も因果もないんだ
随分なご身分ですこと
あなたの気持ちを知ったかぶり
友人として元カノとして
若気の至りを共有した仲として
理解者の振りをする
気付かない素振りで
散々傷つけ痛付けた
今夜もまた
笑顔で毒を刺す
違うんだよ
優しさに敏感になってる
体が勝手に反応してしまう
やさしい手って知ってる?
其の手が包む空気だけで
撫でられてはいけないと
即座に悟ってしまう無垢な罪
あたしは自分を守る為に
あなたとの結び目を守る為に
虚勢を張るしかなくて
その度に誰かに牙を剥いてる
暫く見ていないあなたの
鼾の混ざった規則的な寝息と
たまによる眉間の皺を想像してみる
体は華奢で細いのに吃驚するくらい
腕は筋肉がついていて太い
想い出せないと想っていた細部まで
手とる様に映像が浮かんで来て
実際に触れるとこが出来ないのが
悪い冗談なんじゃないかと思う
彼の体の不調にも心の痛みにも
もっと敏感にもっと我が侭になりたい