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膨らむ仕事


最後にした長期就業は

情緒不安定で強制解雇

実質はたった3週間だったのに

あたしぼろぼろだった


あれから半年


解雇される前日

レジで涙が止まらなくなって

早退する事に成った

何も知らずに誘われるが侭

早番の人達と飲みに行った

今考えたら

送別会だったのかもしれない


ベロベロに酔っぱらって

タオルケットの端を掴みながら

隣に横たわり天井を見上げる彼に

酒臭い吐息を吹きかけた


 彼女作らないの?

  作らないねぇ

 絶対モテると思うのに

  モテないから

 勿体無いなぁ

  お前で善いんじゃない

 ?!

 どうせ酔っぱらってるんでしょ

  酔ってないよ

 明日の朝には忘れてるんでしょ

  ちゃんと覚えてるから

  意識は有るから

  信じてよー

  ほら、酔っぱらってないでしょ

 ほんとに?

  ほんとに

 
1月の末、

公然の前で吐いて

皆を困惑させた言葉が

今、やっと現実に成った


4月の始め、

駅前のパン屋さんで

まだ慣れない彼の家に

フランスパンを買って行った

彼は赤ワインが好きだから

あの頃はふたりで飲むなんて事はなかったね

時間を持て余した彼は

食べて善い?と一言聴いて

夜中の3時に堅いパンを貪ってた


10月の始め、

あたしがそろそろ仕事をすると話した

何処で働くか訊かれ

私事関係、医療関係、発酵関係をだした

パン屋は第一希望じゃなかった

彼は焼きたては美味しいよね

焼きたてのパンが食べたいなと云った

其の一言だけで充分だった

あたしは1月にタイムトリップした


一昨日の夜、

明後日バイトの合否が解ると云うと

彼はどうせ落ちると云った

だったらあなたの街のパン屋を受ける

もうそれ用の履歴書は書いてるから

彼の街で働けるなら

あたしは堕ちても構わないと内心思った


昨日の昼間、

面接を受けたパン屋でパンを買って

公園で鼻歌を歌いながら食べた

貪るのが勿体無い位美味しかった


昨日の夕方、

彼の街のパン屋さんでパンを買った

家に帰って食べたら美味しくなかった

寧ろ油が古くて不味かった

店員さんもあまり善い雰囲気じゃなかった

でも面接が駄目だったら受けようと

半ば諦めの様な気持ちで思っていた

パンがおいしくなくても

店員の態度が悪くても

あたしには関係ない

だって彼の街に居場所が出来るのだから


今朝、

家の前のパン屋って何時から?

11時か12時くらいかな

まだ10時過ぎだった

いつもの帰宅コースからバイクが外れて

彼の街のパン屋の前に停車

ポケットから小銭を出す彼

とっさに此処の美味しくないよと云って仕舞う

彼が怪訝な顔をする

彼の街で働きたいと云う気持ちよりも

美味しくないパンは食べて欲しくない

そっちの方がずっとずっと強かった


今日の昼、

面接の結果が合格だった

一番に彼に其れを伝えた

今朝のパンはおいしかったんだろうか

あたしの発言に腹を立てては居ないだろうか

其れだけが気になる


いつも思ってた事、

自分の街で働くのは厭だった

もっと栄えた所も厭だった

逆に僻地も厭だった

彼の家までの間か其の辺りが善かった

もっともっと一緒に居る理由が欲しかった


でもずっとずっと不安だった

彼はもうすぐ居なくなって仕舞うから

きっとあたしを置いて、行って仕舞うから


彼の居ないあの街で

あたしはきっとやって行けないよ

彼が居ないあの街は色彩を失う

其処でいつまでも彼の影を追って仕舞うのは

考えるだけでも辛過ぎるよ


そう云えば一昨日の夜

温いワインが空になった

白は冷やさないと不味いんだって

壁際のビンが一つまた一つ減っていく

其れが酷く不快で

本当の理由は暴飲暴食なんだろうけど

喉元までさっき飲込んだ物が上がって来た