ご褒美の陽 | trip*trap

ご褒美の陽

土曜の早朝に消えた彼が今

何処で誰と何をして居るのか

何を想っているのか

ひとつも掴めない状況下に置かれ

あたしは唯唯

自分を宥めるしか無かった


散らかった部屋を片付け

柔軟剤を諦め洗濯機を回した

 どうせ帰ってこないのだろう

勝手にいじけて

濡れた髪の侭畳に横たわる


呼吸法の変化に薄々感づきながらも

なかなか抜け出せない陽に踊らされ

気が付くと日が落ちかけていた


諦めの最たる物を

電波に乗せて放り投げる

  そっちは寒い?風邪ひかないようにね

  鍵持ってなかったらポストに入れておくね

優しさの革を被った探り


 申し遅れました、すいません

 今朝帰って来ました


待つまもなく彼からの返信

重かった眼が嘘の様に開いて

あたしは急ぎ足て電車に駆け込んだ


ずうっと前から決めていた

ライトの美術館みたいなの

ほんとは落水荘みたいなのが

有ったら善かったんだけど

もうずっと心に決めていたの

彼にぴったりのアクシス


此の日の為にあたしは。。。

キャッシャーに札を並べながら

倒れそうになった日々を思い出した


水色の袋に紅いリボンが可愛くて

あたしはもう其の時点で。。。



自分の家へ帰り着いて

抹茶マフィンにかぶり付き

久し振りにマンデリンを飲んだ

緩やかな時間の中で

やらなければ鳴らない事が沢山有って

まずは彼にバレない様に

プレゼントを持ち込む方法を練った


彼と会うのは土曜もとい金曜の夜振り

毎日一緒だったから色んな事が溜まっていて

あたしは洗い上がった洗濯物と

今夜の主菜と副菜

ウインドウズでしか使えないスキャナーと

プレゼントを忍ばせた自分の荷物

ヘルメットを引き摺る様にして抱えた

なんか引っ越しみたい、はにかむ


おうちに着いて気付いた事

あたしは彼と暫く会わない内に

話し方を忘れて仕舞っていた


一大セレモニーの緊張も手伝って

気になるのは時計ばかり

落ち着けずにそわそわそわそわして居る


其れを勘付いてか知らでか

彼が三代巨匠の本を持ち出して来た

秒針が気になって止まなくって

あたしは上の空で巨匠の子供らを

眼で追いながらも

時が流れる事ばかり願っていた


それなのに話に盛り上がると

食い付いて離れなくて

さっきまでねっとりと流れていた秒針が

凄いスピードで廻ってアラームを鳴らせた


♪ ドード ドーラ ファ ミーレ ♪

♪ シーシ ラーファ ソーファー ♪

  あっっ!!

 なにっ?!


♪ ドード レードー ファーミー ♪

♪ ドード レードー ソーファー ♪


0:00ぴったりにかけた其れは

ハッピーバースディ

  おめでとうございまぁぁす

 あ、有難う、凝ってるねぇ


いつもは持たない大きなバックに手をかけ

まずはワインを取り出して渡す

次に大本命の水色を渡す

  苺も有るの、

  ケーキ買ってこようと。。

 要らねぇ、

 喰わねぇ

  うん、わかってる

  苺の部分だけ食べてもらおうと想ったの

タルト部分はあたしの胃袋に納めるつもりで

太る事を気にして却下した事は

彼には云わないでおいた

優しい彼はきっと其の内

あたしの為に甘味を買って来てしまうから


あたしは彼の顔を直視する事が出来なくて

うつむいて頻りにとちおとめの産毛を撫でていた


あたしが居間へ戻ると

少し時間を置いて

彼は包みに手をかけた


 ナパだべ?

ニヤニヤと嗤う彼

  御免、ナパ探したんだけどね

  なかったの。。ごめんね

 ううん、そんな気がしただけ


 あれとってあれ

  んーないよ?

 下んとこ

  あ、あった!

 。。。やっぱ明日にする

  わかったぁ


 首輪だべ?

  ううん

 腕輪?

  うん

 腕輪か?

  うん


 また包まれてる

 厳重だな

  ね

 何、今日買ったの?

  すいません
 
 いえいえ

 こちらこそすいません


  建築家の人がデザインしたの

 俺の腕に嵌るかな

  きつくない?

  痛くない?

 ん、たぶん大丈夫

 まだ慣れてないから


一通り見た後に彼は

バングルを丁寧に元に戻した

其の行為が何だか切ない

 なんかまだ入ってる

メッセージカードを見付けたみたい

 凝ってるねぇ

気恥ずかしくて俯いて

  すいません

 すいません

あたしはいつもよりずっとサルだったと想う


**くんへ

**歳のお誕生日おめでとう★

**歳という年が**くんにとって

とびきり素敵で掛替えのない年になります様に

**くんと一緒の時間を過せてあたしは幸せです

産まれて来てくれてどうもありがとう

これからもよろしくお願いします

**


めったに手紙なんて書かなくて

こういうときこそ素敵な言葉を捧げたい

想いだけが先行して

いざ投げかける言葉が思い当たらない

短くて胆略的だけど素直な気持ちを乗せた


昨日は長旅帰りでお疲れの様子の彼

毎日お疲れさま

布団の中で触れられない彼の

体温と寝息を感じながら

あたしも眠りに落ちた


出掛ける前に

 じゃぁ折角だから

とバングルに手をかける彼を

あたしは意図惜しそうに眺めて

其れが彼を傷付けない事だけを祈った


今晩はきっとお父さんが泊まりに来るから

あたしの出番は無いのね

それで善いよ

あたしは独りであなたの産まれた陽、

喜ばしい陽をハイファットと共に祝うわ

久し振りの2連休

あなたのおかげで堪能出来そうだよ



一緒に行きたい

一緒に生きたい

いつか云わなければならない言葉を

やっぱりあなたに伝えられなかった


一昨日、父親と母親に

真剣に今後の彼との事を考えると漏らした

父親は何を馬鹿な事をと呆れた様に投げ捨てた

母親はあなたは彼に依存していると諭した

次の日の電話で父親は

実家に戻って仕事の手伝いをして欲しいと云った

自分から焦って

彼に想いを伝える必要なんて無いと

寧ろ其れは逆効果だと云った

終わりを見据える様な云い方だった


父親と彼とどっちをとるかなんて

馬鹿な選択肢はないと想う

でも何れはどうしたいかどう生きるのか

あたしは結論を出さなければならない


彼さえ良ければあたしは彼に付いて行きたい

結論はとっくに決まってるよ

あたしは彼と生きたい

ずっと隣に、痛いの


父親の言葉に、優しさに揺らいだあたしは

其れでも尚彼に執着していて

歩き方が解らなくなりそうだ