真澄が暮らすホテルの部屋にマヤは何度も泊ったことがある

何度もあるのに

 

慣れない

 

部屋に入るとすぐに真澄が抱きしめてキスをしてくることも

わかっているのに顎を引いてしまう

 

踵が壁に当たる

壁に押し付けられるように真澄の胸に閉じ込められる

 

愛してる

 

何度も、何度も囁かれる優しい声

 

上着の中、腕を背に回すと彼の唇が

頬に触れ、耳に向かう

 

 

「は、、はや、、、速水さん!」

声を上げても、真澄はとまらない

 

マヤが真澄の背中に回していた腕を前に戻して、少し押すと

かえって強く求められる

 

「もう!速水さんったら!」ぐっと力を込めて胸を両手で押すと

笑いながら真澄はマヤを開放する

 

 

ルームサービスを頼んでやるといっても、遠慮してお腹がいっぱいだという

風呂に一緒に入るかっといえば、「えっち!」と真っ赤になって噛みつかれる

彼女に先に風呂に入ることを勧めて

タブレットで仕事のスケジュールを確認しながら、グラスに氷と酒を入れる

 

紫織さんとの婚約破棄まで、半年かかった

半年で済んだ

先が見えないなかで、マヤに期待を持たせることもできず

連絡も取れなかった日々

 

今は、食事に誘い、そのまま一緒に部屋に帰れる

そう、帰れる

 

紅天女の試演後、すぐに劇団月影に寮を用意した

麗君やさやか君もそれぞれ、仕事が増えつつある

 

共同生活もそろそろ終わりにして

それぞれの部屋を用意するにはいいころだ

 

速水の家に戻る気にもならず、ホテル暮らしを続けてきたのは

独りならば、居を構える必要もないところだが

 

マヤと一緒にいたい

毎日会いたい

 

例え、深夜に帰宅したとして

眠るマヤの寝顔と息遣いの中、体を休めたい

そんなことを考えていると

 

バスルームからドライヤーの音がかすかに聞こえてくる

 

バスルームの引き戸に手をかけ

ノックもしない自分に苦笑しながら中に入れば

鏡越しにマヤと目が合う

 

「お先に」っとぶっきら棒に言って

後頭部から風をあてて、髪で自分の顔を隠す彼女

 

服を脱ぎながら鏡越しに彼女を見ても

こちらを見ないようにしている

 

何もかもが可愛い

 

 

バスローブを着て、髪を乾かし

部屋に戻ると、ソファーでくつろぐマヤがタブレットで何かを見ている

ミネラルウォーターのボトルを開けながら後ろから体を重ねると

今日内見にいった間取りが目に入る

 

 

「今ね、麗とラインで話してたんだけど

この部屋なら2人で暮らすのにいいんじゃないかって」

 

「独り暮らしの部屋のはずだが?」

 

「ねぇ速水さん、麗と2人暮らしでもいいよね」

振り返るマヤに顎を引いて真澄は、マヤの隣に座り直す

 

「ずっと麗と一緒に暮して来たし、これからだって!

独り暮らしする理由がないから、、その、、麗と一緒がいいの

だめ?」

 

「独り暮らしが寂しいなら、俺のところで暮らせばいい」

 

「え?」

 

「今、部屋を探してる」

 

マヤの瞳がかすかに揺れる

 

「大丈夫、速水の屋敷の女中頭の芳野に

新居の家事を任せる話はできてる

掃除も洗濯も、食事の準備も心配ない、、ん?」

 

まっすぐで心を奪われる瞳が吊り上がっているのに

気づいて慌てて何か言おうとするが間に合わず

「なによ、それ 私が家事ができないの前提じゃない!

そりゃ、、、家事は、その、、苦手っていえば苦手だけど

この前も洗濯機まわしただけで、全部ピンクになっちゃ、、

でも、、でも!」

 

見る間にマヤの目に今にもこぼれそうなほど涙がたまる

 

「だから、適材適所

そう、適材低所だ、、、君に家事ができるとは思っていな、、、え?」

 

女心など分からない真澄は、墓穴を掘る

 

「うーーーーー」

うなり声をあげて、見上げる目が怒ってる

 

「もう寝ます、おやすみなさい」っと言い捨てて

寝室に向かうマヤの後ろ姿を呆然と見つめ、

喧嘩になって深夜に帰ると言い出した時のことを思い出し

真澄は、怒っていても同じベットで寝ることができる関係になれたことに

安心していた

 

 

真澄は、酒を少し飲み、寝室に入ると

広いベットの隅ですでに寝ているマヤを薄暗がりの中みつけ

控えめなため息をついた