空調は快適な温度のはずなのに
真澄は自分の指先に冷たいものを感じる。

この応接室に入ってきた時とは違い、年相応の落ち着いた雰囲気、先が読めないハジメの話しをじっと聞く。

「あなたは、鷹宮紫織の策略に嵌まったとはいえ、マヤが紫織のウエディングドレスにジュースをかけたと疑い声を荒げた。
あの時、自分の婚約者を守り、マヤに罵声を浴びせた。
婚約指輪を盗んだとも疑った。

後で、鷹宮紫織の策略だとあなたは紫織に婚約破棄を突きつけていたが、あなたはどうなんだ。

あなたは、あの時にマヤを愛する資格を失ったんですよ。」

ハジメは、にこっと笑った。

「鷹宮紫織が自殺未遂を繰り返し、精神を病んだら、また紫織との結婚の承諾をした。マヤにアストリア号での出来事は余興だったと、、、
どれだけマヤの気持ちを踏み躙ったんだ。

紫の薔薇の影を利用して、マヤに『紫織が正気に戻ったら迎えにいく』と約束してるとか。

身勝手すぎますねぇ

もう、いいでしょ
マヤは僕が貰います。

北島マヤを諦めてください。」

真澄が何も言えずにいると
「じゃ、僕、、今から妻になる人と出会うので
これで失礼します。
お会いできてよかった。
僕達、これから友人としてお付き合いしましょう」

そういうと、立ち上がりバックパックを背負う。
応接室の扉に手をかけたハジメの背中に
「マヤの気持ちはどうなんるんですか?」と真澄が鬼気迫る声で言う。

「彼女の気持ち?そうですねぇ、、、、」
振り返り笑顔のハジメ
「マヤは僕を愛するようになります。
何故って、マヤは、、、速水さん、あなたを犠牲にできないから、僕を選ぶんです」




マヤはオーディションを受けた帰り道
最近できたベーカリーの店内でパンを選んでいた。

店内の画像を映すスマホの画面を見ながら「クスッ、やっぱりそのアップルたっぷりのを選んだんだ」ベーカリーの入り口へ向かう。
ハジメが扉を開けると、店内から扉を開けようとしたマヤが、あらぬ力に引っ張られたようにハジメの胸にぶつかった。

「いったー、あ!ごめんなさい」
マヤは鼻を押さえながら、反対の手で相手の胸に手を置いた。



「いえ、こちらこそすみません、
あれ?北島マヤさん?」

ファンか何かかなぁ、、「はい」と答えるマヤ

「僕、青木麗の兄のハジメです」

「ええええええーーーーー!!!」

ベーカリーどころか、遠くまで聞こえる声でマヤは驚いた。

2人は笑いながらマヤのアパートへ向かう。
「もうすぐ、僕等の祖母が来るんですw
マヤちゃんも是非一緒に晩御飯どうかな?」

「え?!おばあちゃん?!
麗、家族のことはずっと言わないから、お兄さんがいる事もおばあちゃんがいることも知らなくて。
あ、、、でも何年振りかの家族の食事だから私はお邪魔」「そんな事ない!祖母も僕も麗とマヤちゃんのファンなんだ」勢いのあるハジメに圧倒される。

「あ、、ほら、祖母の車だ」

アパートの前に似つかわしくない高級車が停まったのが見えると、ハジメはマヤの手をとり小走りに車へ向かった。

観音開きのドアが運転手により開けられると
ふくよかで優しそうなおばあさんが現れた。

エリザベス女王みたい、マヤが青木弥生に抱いた第一印象だった。

アパートの玄関でマヤが麗を呼ぶと
「なんだいマヤ、大声出して」と麗が現れた。
麗は車とその前にいる2人を見て言葉と顔色を同時に失った。

「おばあさま」

「麗、、、何年振りかしら。」