「今日の稽古の後、食事に行かないか?」
向かい合い朝食をとりながら言う真澄に
サンドイッチを口いっぱいに頬張るマヤが咽せる。
「あ、えっと、、今日は、、どうだったかなぁ
18時までには稽古は終わるんだけど、、」
「迎えに行く」
真一も離乳食が始まり、真澄がスプーンでマッシュポテトを口へ運ぶ。
「まんまんまんまん、ん!」口をつぐみ顔を横に振る。
真澄が、くるくるっとスプーンを回すだけで魔法がかかる。
真一がパクッとスプーンを口に入れると、タイミングよくスプーンを上に持ち上げる。
真澄は何をするのもスマートで優雅に見える。
自分も朝食をとりながら、真一の世話をしていても余裕がある。
「何か問題でもあるのか?」
「いえ、問題があるとか、ないとか、、、その、
稽古の後は、それなりに疲れているので
帰りたいというか、、真ちゃんが待ってるし」
「真一のことは心配ない。
今日は、夕方まで俺が真一と一緒にいる。
午後のお散歩も俺が連れて行くしな。
稽古の後、デートに出かけたところで問題ないだろ」
「あの、、えっと、デートって何処へ行くかによります」
「久しぶりのデートなんだがな、、
サプライズがご所望か?」
「違います!」勢いよく否定したため手元が狂いお皿とカトラリーががシャンと音を立てる。
驚いた真一が息を止めた途端、真澄が隣りから手を伸ばしベビー椅子からすくいあげる。
膝の上に乗せた真一をあやしながら真澄が真一に言う。
「パパが勇気を出してデートに誘っているのに
ママは、デートがお嫌なのかなー」
「もぉ!嫌いなんて言ってないじゃない!
そうじゃなくて、、、ど、、どこに行くの?」
数週間前に真澄にデートに誘われ、シンプルなワンピースを着て迎えの車で真澄の待つホテルへ行くと
ある部屋へ案内された。
真澄がいると思っていたが、そこにはメイクさんが数名いて、シンプルなドレスが用意されていた。
メイクと髪をハーフアップにされ
ドレスを着せられる。
シンプルなドレスだなぁと鏡に映る自分を見ていると
後ろに大きな薔薇のフレアをつけられ、あっという間に華やかになる。
少し動いただけで、それは優雅に動いた。
そのドレスの美しさに見惚れていると、黒いタキシードの真澄が現れた。
「綺麗だ」
言葉と共に剥き出しの肩にキスされ、人前でそんなことをする真澄に抗議する。
「な、、な、、、何するんですか!」
「最愛の妻に挨拶だ」
しれっと言う真澄が恨めしい。
「こんなドレス着てどうするんですか?」
「言ってなかったか?今日は大都の創立記念パーティーだ。総裁として初めて妻をお披露目する。
安心しろ、パーティーで挨拶まわりさせるつもりはないからな。パーティーはもう中盤だ」
マヤの手をとり、その甲にキスしながら
「ダンスで何曲か踊るだけでいい」
「な!!そんなの聞いてないし!
ダンスだって踊れないのに」
「踊れるさ、踊っただろ?
俺に合わせればそれでいい」
「そんな大勢に見られるなんて、そんな!」
「君は舞台でどれだけの人に見られているんだ。
女優なんだろ?」クスッと笑いながらマヤの手をひき鏡に向かって立たせる。
タキシードのポケットからサラッと出したネックレスがマヤの首を飾る。
ブランドや宝石などわからないマヤでも、それがとんでもなく高価なものであることはわかる。
「綺麗だ」
鏡でマヤの瞳を見つめながら、マヤの肩口に再び口付ける。
「聞いてないもん、こんな急に、、やっ」
「予告しないとダメな理由を教えてくれ」
「ダンスなんて踊れません」
「踊れるさ」
「突然すぎます!心の準備がいるんです」
「そんなものいらない。さあ、奥様」
恭しく片手を胸にお辞儀をする真澄を
涙目のマヤが睨む。
「どっちみち行くんだ。それとも君は、お姫様抱っこで会場に行きたいのか?」
「いつまでグズグズ言ってるんだ。
さあ、幕が上がる」
真澄が左肘を曲げ、マヤを促す