目を覚ましたマヤは、すぐに検査のために病院へ移された。
病院に移ってすぐ、マヤの病室にスーツ姿の男性が3人入ってきた。

「マヤ、こんな時だが、、俺と結婚してくれ」

じっと手を握り見つめる真澄にマヤはゆっくりと目を伏せ頷いた。

婚姻関係にない為、後見人として真澄はマヤの治療の同意書にサインできたが、戸籍上は真一の父になれていなかった。

字を書けるか聞かれ、手を動かそうとするが力が入らないマヤの手を真澄がそっと握る
視線でその男性たちに指示を出すと婚姻届けは下げられ、3人の男性も部屋から出て行った。

「大丈夫、彼等は弁護士だ。サインなしでも手続き出来る。」

「これで君は俺の奥さんだ」
額をつけて鼻先を合わせる。

医者が代わる代わる診察にくる。
当たりが暗くなり、マヤにつけられた機械から規則的に電子音がする。

マヤは6か月も眠っていたため、声を出すことが容易ではなかった。
「疲れたか?ん?なんだ?」マヤの口元に耳を近づける。
真澄は、サイドテーブルに置かれた袋からトローチを取り出し
「いちご味にして貰った」と微笑み、一つ取り出すとマヤの口元へ運ぶ。

唾液も出にくいマヤの口には、スムーズに入らず
真澄はそれを自らの口へ入れ、しばらくして顔をマヤの唇によせトローチを入れてやる。
そのまま舌でマヤからトローチを戻し、またマヤへ。
トローチが溶けてなくなったか、
そもそもトローチの存在を忘れたのか
マヤの舌を追い、歯列をなぞる。

「は、、や、、、さ、、、ちゃ、ん」
「真一は、屋敷だ。朝になったら一緒に帰れる。
マヤ、、、すまなかった」

「君の手紙を読んだ」
里山を離れる前に幸子からノートの束を受け取っていた。マヤが搬送された病院への移動中、それを読んだ。

「速水さんへ」の書き出しから始まるそれには、毎日の出来事、お腹の赤ちゃんの様子が綴られ、真澄とお腹の赤ちゃんへの愛が溢れていた。
料理のレシピも書かれていたが、上からバッテンがされている。
あるページには、名前の候補だろうか、沢山の名前、何度も何度も書かれた「真澄」の文字
その中に「真一」があった。

「名前は、真一にした。よかったか?」
マヤが息を吐いただけで、会話が成り立つ。

そして、真一の成長をマヤに話して聞かせた。

「真一が今、お気に入りなのは、くまさんのぬいぐるみとかぼちゃのポタージュ、白い楕円のおせんべだ。
あれは、食べ物というより唇の水分を奪うだけの味のしない白い物体だ。
手に握った部分はよだれで固まるから気をつけないと後が大変なんだ」顔をしかめていう真澄にクスッとマヤが笑った様に感じた。

朝が来た。
病室のカーテンを少し開け、瞼の裏がチクチクする痛みを感じる。今日の仕事のスケジュールを頭で組みたて、直接でなければいけない商談や決済はない。
Web会議で子会社の取締役会、グループ会社の会議、あとはどうとでもできる。

ベットの脇に戻り、マヤに覆いかぶさりキスをする。
そのキスでマヤは目覚めた。

「俺は王子様に昇格したかもな」笑う真澄にマヤは微笑むが「し、、しん、、、」声が出せない。

「わかってる、家に帰ろう」