今日からマヤが隣の寝室にいる。
静かだ、、英介への憎しみと、事業の拡大や野望だけで、自らの幸せなど考えた事はなかった。マヤを愛し、想いが通じた時も具体的な未来や夢などなかった。

愛しあったあの日、真澄はマヤに何度も言った。
「俺のものだ」
「俺だけのマヤ」
「誰にも渡したりするものか」
この世でただ1人、何を引き換えにしてもその全てを欲しいと思った女だ。

「ほんの少しだけ」誰に言い訳する必要もないが
真澄は、眠るマヤの隣に体を横たえた。
洗いざらしの自分の髪が、彼女の頬に触れる。

「ねぇ、速水さん、、ねぇ、はやみさん
起きて、ねぇったら」クスクスと笑いながらマヤが自分の髪を弄んでいる。
「もう少し寝かせてくれ」瞼が重い。
そうだ、花見に行きたいと思っていたんだ。
青空の下、桜の木の下でマヤの膝枕で寝ている。

「なぁ、マヤ。愛してる。何よりも君を愛してる」「ええ、知ってるわ」

風が吹き、その風の行方を追うように遠くを見るマヤを見上げ、胸が締め付けられる。
「ねぇ、速水さん。ちゃんと眠って。体壊しちゃうんだから」
「君は、起きてくれないのに、俺に起きろと言ったり眠れと言ったり。どっちなんだ」笑いながら、マヤを見上げる真澄は難しそうな顔を作る。
「ふふ、、、久しぶりの嫌み虫。そういえば最近、起きてくれって言わないのね」
「、、、言わないさ。」
「怒ってる?私の事嫌いになっちゃう?」
「嫌いになんかならない。怒ってもいない。」
「これはあなたの夢なのよ、好きなようにすればいいのに。何処へでも行けるわ、なんでもできるのに」
「俺は、、、、君に会えれば、それでいい
夢でも現実でも、君の側に居られれば、、、それでいい」
「はじめの頃は、起きろってあんなに怒ってたのに、どうしたの?
私が眠っていた方がいいって思うようになった?
誰の目にも触れない、あなただけの私」

「そんなわけあるか、、そんなわけ。
君はいつからこんな意地悪を言うようになったんだ。
無責任に君を抱いたわけじゃない。
だが、、、、君ひとりに、、、」

「ふふっ、わかってるわ。ねぇお願い、自分を責めないで、、そんなに無理しないで。」

「愛してる」真澄が少し頭を浮かせるとマヤの顔が近づき口づける。

「あ、真ちゃん、、真ちゃんが呼んでるわ。あの子ったら、速水さんそっくり、、、やきもち妬きなんだから」
「俺が嫉妬深いって、いつ気づいたんだ」真澄から笑みが漏れる。
「知ってるわ、私は、あなたの事、何だって知ってるわ」
「マヤ、、、」
明るい日差しの中から、暗い寝室へと引き戻される。
眠るマヤの髪を指で流していた。
現実と夢の界が曖昧になる。

何だってしてやる、二度と独りにはさせない。
何からも守る、誰からも守る。
その強さの為に戦っている。事業規模や業績、ましてや金だけじゃない。誰からも潰されない力を手に入れてやる。

ベビーベットにいる真一が、一際大きな声で泣きはじめた。
「俺たちのチビちゃんは、早起きだな」クスクスと笑いながら、ちゅっと音を立ててマヤにキスをする。



真澄は、なるべくマヤのベットの上で真一をあやすようにした。
真澄が真一のお腹をわしゃわしゃと掴む真似をすると真一は両手足をバタつかせて喜ぶ。
そして眠くなるとマヤの脇に潜り込むように頭を擦り付け、居心地の良い場所を見つけて寝るようになった。