「この橋を渡れば、」
はやる気持ちを抑えきれず、アクセルを踏み込み
目的の家を目指す。


「おじさん、だれ?マヤ姉ちゃんは診療所だよ。
今日、赤ちゃんが産まれるんだ」ぴょんぴょんとその場で嬉しそうに飛び跳ねる少年の言葉に真澄は戸へかけた手を止めた。

龍一というその少年の案内で診療所にきた真澄を見つけた看護師は「あなた、もしかしてマヤちゃんの?」
言うが早いか、真澄の手をひき、指手消毒をさせ、介助用のガウンを着せる。
分娩室に押し込まれた真澄は声を発することもできない。

マヤは振り返り一瞬真澄と目があうが、痛みに前屈みになる。
汗で濡れた黒髪、彼女の足元の医者の声、
呆然と立ち尽くす真澄の耳に産声が聞こえ、
やっと「マヤ!」っとベット横に駆け寄ることができた。

臍の緒を切られ、母親の胸に乳児が置かれる。
汗で張り付いた髪、緑色の衣服を血が黒く染め
初めて見るマヤの表情に真澄は胸を熱くし、「遅くなった」と口にした。

マヤは「よかった、、はやみ、さん。赤ちゃんをおね、、おねが、、い」といい、安心したように目を閉じてしまう。

見る間にマヤの顔から血の気はひき、
真澄は、幸せの絶頂から引きずり下ろされた。

「マヤ!!」意識を取り戻そうと叫ぶ真澄は乳児を抱き、混乱する分娩室でマヤに縋りつく。
医者が看護師に向かって「出血が止まん!町の病院に連絡を!」と指示を出している。

いつの間にか乳児は真澄の手からベットへ移され
何やら処置をされ
耳にしている医者の言葉は、どうやってマヤをここから町の病院へ運ぶかということだ。

真澄はスマホから社にいる水城に連絡を取ろうとして、自分の手が我が子の血で染められ、小刻みに震えている事に気づいた。

「はい、水城です」の声に電話の向こうの真澄が何も言えずにいる。「真澄様?、、、、、マヤちゃんとお会いになれまして?、、、、真澄様?、、、真澄様!」
真澄の異変に気づき水城が真澄を何度も呼ぶ。

どう話をしたのか、どれぐらいの時間が経ったのか
診療所の廊下、長椅子に座り頭を抱え込む真澄にブランケットに包まれ眠る乳児を抱いた看護師が声をかけた。
「ドクターヘリは、もうじき来ます。ほら、パパがしっかりしないと赤ちゃんが不安がりますよ」